再び、舞台は美瑛川支流へ。望月さんは、ぐんぐんと川をさかのぼっていく。天気と川のコンディションが良い日には、川面の虫を食べに来た魚が顔を出す「ライズ」という動きがあちこちで見られるというけど、この日はさっぱり。
今日は難しいかなと思いながら、川の流れに足を取られないように恐る恐る歩いていたら、少し先で竿を振っていた望月さんが、「きましたっ」と声を上げた。「三日月」のように、竿がしなる。慌てて駆け寄り水面を見ると、20センチほどの魚が必死の抵抗を見せていた。すかさず網ですくいあげた望月さんは「北海道の固有種、オショロコマですね」と笑顔を見せた。日本では北海道にしか生息しないサケ科の川魚だ。
魚の姿がまったく見えない日に、北海道固有の魚を釣り上げる瞬間を目の当たりにできたのはラッキー……ということではない。圧倒的な時間を北海道の川で過ごし、その川で魚を釣るためにこだわり抜いた竿を作ってきた望月さんだからこその釣果なのだ。オショロコマを丁寧に川に戻した望月さんが、驚くような話をしてくれた。
「魚はみんな顔も違うし、模様も違います。特に大きな魚は生き抜いてきた過程でついた傷があったり、個性がハッキリしています。それほど移動もしません。だからこうしてずっと釣りをしていると、3年前に釣った魚だ! と気づくことがあるんです。そんなのあり得ないと思うだろうけど、何度もあります。久しぶりに再会すると、やっぱり嬉しいですよね」
釣りに魅せられ、釣りに生き、魚の顔を見分けられるようになった男は、今日もきっとフィールドに立っている。僕もまたあの川を訪ね、今度は自力で百戦錬磨の魚たちと知恵比べをしてみたい。今回、望月さんが釣ったオショロコマとの再会を夢見て。