未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
193

北海道の川が鍛える珠玉の釣竿 バンブーロッドを持って、魚に会いに。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ・望月さん
未知の細道 No.193|10 September 2021
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#3生涯忘れられない出会い

ある時、「ファッションを追うのに疲れて」アウトドアウェアをデザインする仕事に転職した。初めてバンブーロッドを自作したのは、この頃だ。そして2012年、日本のバンブーロッドビルダーの第一人者に電話をかけて「教えてください」と弟子入りを志願。面接を経て受け入れてもらうことになり、それからは月に一度、師匠の工房がある福岡にまで通って教えを受けるようになった。

時期を同じくして、同じ業界の別の会社の社長に「将来どうするの?」と声を掛けられた望月さんは「40歳までに北海道に移住して、バンブーロッドを作りたい」と答えた。「それでもいいからうちに来ない」という誘いを受け、三度目の転職。仕事と修行を両立した。

この修業の時期に、生涯忘れられない出会いを得る。と言っても、人間ではなく、魚との。

世界中から釣り人が訪れるヘンリーズフォーク。(写真提供:望月さん)

師匠は毎年、フライフィッシングの聖地と呼ばれるアイダホ州のヘンリーズフォークに、竿のテストもかねて釣りに行く。そこは自然豊かで水棲昆虫、陸生昆虫が多く、それをエサにするたくさんのニジマスがいることで知られる。

その釣行に望月さんも同行したのだが、最初の年は大きなニジマスを釣ることができなかった。最終日には、望月さんのフライを目にした大きなニジマスが7回も顔を出したのに、フライを咥える寸前で方向を変えたり、水中に戻ってしまった。ヘンリーズフォークには世界中から釣り人が集まるから、魚も賢くなって簡単には騙されないのだ。

それがあまりにも悔しくて、1年後、雪辱を期して再びヘンリーズフォークに向かった。その時に初めて、20インチ(約50センチ)を超えるニジマスを釣り上げることに成功。小学校に通う前から釣りを始め、無数の魚を釣ってきた望月さんにとって「忘れられない魚」になった。

望月さんがヘンリーズフォークで釣り上げたニジマス。(写真提供:望月さん)
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