朝5時。充実した1ヶ月はあっという間に過ぎ去り、ついにACACを出て、家に戻る日がやってきた。これまでリサーチしたことを、家に戻ってまとめ、作品の構想を練って、夏の終わりにまたここに来るのだ。
定期的に部員たちがACACに集まって勉強会をすることになった「ACACの写真部」は、しばらくは村上さんと、部長になってくれた我満くんに託し、9月に再訪するまで、私は自宅からズームで参加する。便利な世の中だ。
大量の荷物を運んでいると、彫刻家のしまうちさんが起きてきて、見送ってくれた。しまうちさんはこれからが滞在制作の本番だ。7月31日からはここでの展覧会(しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」)も控えている。「残りの滞在制作、頑張って! 展示は必ず見に行きます」とエールを送ってACACを離れた。
まだ静かな街を車は滑るように走る。高速道路に乗る前に、町の中心部へ寄ることにした。5時から開いている青森駅前の市場に寄って、とれたての大間のウニやマグロ、平内のホタテ、それにヒラメやタコをたくさん買ってかえろうと思った。 家に戻ったら、きっと青森が懐かしくなるだろう。その時は家でこれを食べて、青森の思い出に浸るという算段だ。あと2ヶ月も経てば、また青森に戻ってくるはずなのに、私はすっかりこの町を離れがたくなっていた。
いつも行く魚屋のおじさんが、「家、近いんだろ? 氷そんなにいらないよな?」と聞いてくる。
私は「いいえ、今日は家に帰るまで10時間以上かかるから、箱にたくさん氷をつめてください」と頼んだ。おじさんは丁寧に魚と氷袋を重ねて、ガムテープでしっかり閉じた大きなトロ箱を、「はいよ!」と手渡してくれた。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。