未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編《青森の見方》を考えるリサーチの旅 本州最北端で過ごした1ヶ月間

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.191 |10 August 2021
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#10また来ます。

受付の小笠原さんと食べた採れたてのウニとホタテの美味しさが忘れられない……

朝5時。充実した1ヶ月はあっという間に過ぎ去り、ついにACACを出て、家に戻る日がやってきた。これまでリサーチしたことを、家に戻ってまとめ、作品の構想を練って、夏の終わりにまたここに来るのだ。

定期的に部員たちがACACに集まって勉強会をすることになった「ACACの写真部」は、しばらくは村上さんと、部長になってくれた我満くんに託し、9月に再訪するまで、私は自宅からズームで参加する。便利な世の中だ。

大量の荷物を運んでいると、彫刻家のしまうちさんが起きてきて、見送ってくれた。しまうちさんはこれからが滞在制作の本番だ。7月31日からはここでの展覧会(しまうちみか「ゆらゆらと火、めらめらと土」)も控えている。「残りの滞在制作、頑張って! 展示は必ず見に行きます」とエールを送ってACACを離れた。

まだ静かな街を車は滑るように走る。高速道路に乗る前に、町の中心部へ寄ることにした。5時から開いている青森駅前の市場に寄って、とれたての大間のウニやマグロ、平内のホタテ、それにヒラメやタコをたくさん買ってかえろうと思った。 家に戻ったら、きっと青森が懐かしくなるだろう。その時は家でこれを食べて、青森の思い出に浸るという算段だ。あと2ヶ月も経てば、また青森に戻ってくるはずなのに、私はすっかりこの町を離れがたくなっていた。

いつも行く魚屋のおじさんが、「家、近いんだろ? 氷そんなにいらないよな?」と聞いてくる。
私は「いいえ、今日は家に帰るまで10時間以上かかるから、箱にたくさん氷をつめてください」と頼んだ。おじさんは丁寧に魚と氷袋を重ねて、ガムテープでしっかり閉じた大きなトロ箱を、「はいよ!」と手渡してくれた。

※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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