未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編《青森の見方》を考えるリサーチの旅 本州最北端で過ごした1ヶ月間

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.191 |10 August 2021
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#7プチ野宿

すっかり眠れるようになったので、私は調子に乗って、前々からやってみたくて、でもいまだかつて一度もやってないことを、この青森で思い切ってやってみよう、と思った。

それはなにかというと、一人で「野宿」だ。今はやりのソロキャンプというほどのことではない。ただ単に、ごく近所の人もクマも絶対に来なさそうな安全なところで、こっそりと野宿してみよう、と思い立ったのだった。

思いついたその日のうちにテントとコットとランプを買って、早めにご飯を済ませ、安全な場所で決行することにした。

緊張の初野宿。また眠れなくなるかもしれないな、とも思ったが、12時すぎると、すぐに眠くなって、いつのまにか寝入ってしまった。それからどれくらい経ったかわからないが、真っ暗闇の中、ギャーッという獣の声で目が覚めた。どうも小さな動物が縄張り争いしているようだった。かん高い声なのでクマではないだろうが、聞いたことのない鋭い鳴き声は、犬や猫のものではなさそうだ。狐かな? タヌキかな? それともイタチ? ……と、うとうと考えているうちに、また眠ってしまった。

次に目が覚めた時は、外はうっすら白みかけていた。テントのてっぺんには鳥たちがとまって、騒がしく鳴いている。本州最北端の青森は、日の出が早い。自分が住んでいる町より20分は早いはずだ、だからだいたい4時前だろうか。ぼんやりした頭で計算する。
小鳥たちは自分たちの住処に突然出現した緑色の物体が珍しいのだろうか。何羽かテントをよじ登ったり駆け下りたりして、大騒ぎしている。「なんだなんだこれは……。うるさい……。でも可愛い……」と思いながら、また寝てしまった。

次に起きた時はすっかり朝だった。こうして私は人生初の野宿を完遂したのだった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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