青森の自然でもう一つ欠かせない要素は、県内に4つもある「火山」だ。十和田湖と奥入瀬渓流も遥か昔の大爆発によって生まれた地形だし、何度も訪れた美しい田代湿原の周辺は、常に有毒な火山ガスが出ているポイントがいくつもある。「知らずに入ると死んでしまう場所もたくさんあるのだから、気をつけて」とみんなに言われた。
青森の地形の成り立ちをさらに詳しく教えてくれたのは、地形学者で弘前大学教授の小岩先生だ。小岩先生は地形の変化を研究している。先生の調査に同行させてもらうために、定期的に村上さんとともに弘前方面へ通った。弘前の街は岩木山のお膝元だ。岩木山に向かって車を走らせるのが楽しみになった。
小岩先生が調査している日本海側の海岸線は、常に波浪や強風、雪など過酷な自然の影響、加えて人間社会のさまざまな営みの影響も受けており、短いスパンで地形の変化がわかる場所なのだという。いつも先生に連れて行ってもらう海岸には、そうした変化が大きくあらわれている露頭(地層が露出しているところ)があり、そこを定期的に観察するのだ。この露頭には何万年もの時間が凝縮されていて、はるか大昔の十和田の大噴火の火山灰、北海道の洞爺の火山灰、旧石器時代の人々を絶滅へと追いやった鹿児島・姶良カルデラの噴火の火山灰など、それぞれをはっきりと見ることができる。またここから少し北側にいけば、約3万年前の最終氷期の埋没林が露出している海岸もあった。風と波に大地が削り取られて、こうやって何万年も前の木の化石が、今まさに私たちの眼の前に、姿を現している、というわけだ。
春は風が強いから、様々な変化が見えやすいのだと、小岩先生は教えてくれた。 「逆に、いつかまたこの崖も砂に埋もれたり、波にさらわれたりして、なくなっていくのかもしれないですね」と私がいうと、小岩先生はそれを「そうですね、新しい砂浜が広がって、新しい地形が作られるということですね」と言った。
そうかあ、今ある地形は、自然の作用で消えてなくなる、ということではないのだ。つねに変化しながら新しい地形が生まれていく、ということなんだ。と小岩先生の言葉で気づいたのであった。