今回の滞在制作にあたって、村上さんから二つのことを頼まれていた。一つは「地域の人たちと協働して、青森という土地の見方を考えてほしい」ということ。もうひとつは地域の人たちとともにワークショップを行うこと。
そこで、村上さんに紹介してもらって、まずはさまざまな人たちに会って話を聞くにした。地域の歴史や自然を調査している研究者たちや、町や山のことをよく知っている人たち。このACACの活動を心から愛し、サポートしている町の人たちの団体、通称AIRSのみなさん。それから青森公立大学の学生たち。
なかでもとてもお世話になったのは、街中にある「ホテ山」ことホテル山上のオーナー、山上さん親子だ。家族そろってACACの活動に理解があり、長年ACACのスタッフや訪れるアーティストをサポートしてくれているホテルなのだ、と村上さんが教えてくれた。山上さんは青森の山や森に詳しく、興味がわいた場所に連れて行ってもらえることになった。
もう一つのミッションであるワークショップは、参加者とともに互いの作品を見せあって話し合いながら、写真について勉強し、来年の春、市内で小さな展覧会を実施するところまで行う長期プロジェクト、「ACACの写真部」を立ち上げることになった。
ワークショップの第1回目は、青森公立大学の学生や卒業生を中心に15人もの人たちが集まった。地域とアートについて卒業論文を書くのだ、というみくさんや、町に出てスナップショットを撮り続けている藤本くんなど、公立大生たち。それから社会人になってからも写真や映像の作品を制作して発表している我満くんやかなこさんなど、青森には美術に関わっている若者がたくさんいた。 写真を学びたい若者がたくさんいることが分かってホッとしたが、もう一つ嬉しかったのは、印刷会社にお勤めしている濱中さんが、はるばる弘前からやってきたことだった。
なんと濱中さんは、私がずっと前に作った鳥取の写真集を見てくれていて、参加したのだという。濱中さんが作った写真集を見せてもらうと、北東北の何気ない自然や人々の暮らしの気配を静かにたたえた写真で、私もその作品が好きになってしまった。若者たちも、親くらいの年齢の濱中さんの写真に、とても影響されたようだった。よしよし、いいぞ、いいメンツが揃ったな、と私はひそかに思った。
こうしてワークショップとリサーチを並行して行う、滞在制作の日々が始まった。やがてリサーチには、ワークショップのメンバーも手伝ってくれるようになっていった。