「私にとっては、『友達に会いたい』が原動力です」
以前、テレビである芸能人がそう言っていた。その人は世界中に友達がいて、彼らに会うためだったら地球の反対側まで旅に出るというのだ。
今回のコラムを書きながら、「私を旅に駆り立てるものってなんだろう」と考えていた。気になる食べ物、憧れの人、見たこともない絶景? 人それぞれ理由があると思うけれど、私の場合は「大切な人を喜ばせたい」という気持ちが強いかもしれない。
嬉しそうに水信玄餅を手に持った友人の顔、「おー、来てくれたんだ!」と私を見たイオさんの顔、かき氷を食べて満足そうな娘の顔、「楽しかったよね」と振り返る家族の顔。コラムを書きながら、それらを思い出していた。
一緒に旅をする人、旅先で出会う人、そこにいる誰かと共有できる想い出を作ること。その機会は意識的に作らなければ、人生はあっという間に過ぎてしまう。娘が生まれ、旅というものが遠くなり、余計にそれを感じる日々だ。なのに、日々のいろんな物が優先されて、やっぱり腰が重くなってしまう。
だからこそ、私には旅を促すちょっとした「言い訳」が必要なのだ。友人を喜ばせたいから、おいしいものが食べてみたいから、会ってみたい人がいるから。小さなきっかけでエンジンをふかして、私はようやく旅に出ることができるのかもしれない。
思えば、ライターという仕事は、私にたくさんの「言い訳」をくれる。
これまでも、仕事でなければ恐らく行くことはなかった場所に連れて行ってくれた。「リトルインド」と呼ばれる西葛西でカレーを食べたり、気仙沼の氷でできた水族館で震えたり。茨城県では、金魚すくいの塾に入ったこともあった。どれも大切な想い出で、私を成長させてきてくれた旅だ。今度は旅先で出会った人を喜ばせたくて、私は必死に原稿を書く。
言い訳がないと旅に出られない私に、言い訳をくれるこの仕事や周りの人たちに感謝したい。そして、これからも「言い訳」を見つけたらすぐに旅に出られる準備をしておこう。一生の想い出に残る旅の、最初のきっかけは本当に小さいことでいいのだから。