「月に一度しかオープンしないチーズ工房があるんだけど」
また食べ物か、と思われるかもしれない。こう切り出された夫も、きっとそう思ったに違いない。ただ今回は少し話が違うのだ。
きっかけは、未知の細道編集長の川内イオさんが著書『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』を出版されたこと。10人の稀な作り手を追いかけて取材し、彼らの仕事観だけでなく生き方までを描いた本だ。
塩、アイスクリーム、パン、お茶……数々のとんでもない“おいしい”を生み出す人々のなかに、千葉県でチーズを作る柴田千代さんという方がいる。
2017年、『第11回ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト』で女性職人として初めて最高賞を受賞し、世界大会でも銅賞を獲得した千代さんのオリジナルチーズ。都内のイベントに出店してもすぐに売り切れ。月に1度、第一日曜日のみオープンする工房での販売も、先着順で売り切れ御免だと聞いていた。
いいなあ、千代さんのチーズ、食べてみたい。どんな味なんだろう。本やSNSで千代さんのチーズを見るたびに、ヨダレで口の中をいっぱいにしてきた私。そんなにすごくチーズ好きの自覚があったわけではないのだけれど、食べてみたくてたまらなかった。
そしてなにより、さまざまな記事で読んでいた千代さんを「かっこいい!」と思っていた私。自分の求めるもののために行動し続け、実際に結果を出している。それでいて決して満足せず、自分らしいものづくりを徹底している姿に(お会いしたこともないうちから)密かな憧れを抱いていたのである。
そんな千代さんのいる『チーズ工房【千】sen』で、イオさんが著書と、本のなかに登場する実際の商品を販売する。そう聞きつけて、重かったはずの私の腰はふわっと浮いた。
軽トラにモバイルハウスを乗せるという、イオさんの新たな行商スタイルをこの目で見たかったし、本のなかに出てくる千代さんに実際に会ってみたかった。そしてもちろん、千代さんのオリジナルチーズが食べてみたかった!
「この日にどうしても千葉まで行きたい。なぜなら、ここにはこんなチーズがあってだな……」
夫に渾身のプレゼンをして、運転を依頼した。山梨に水信玄餅を食べに行ってから2年、いまだ運転する機会を作れないでいる。しかし、そうと決まれば、千葉県大多喜町へ! 夫と娘、母、今回は妹まで連れての小旅行、またもやミニバンの出番である。