未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
181

『旅の思い出』編 食べ物、人、現実逃避。 あなたの旅の「言い訳」はなんですか?

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.181 |10 March 2021
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#5きっかけをもらえた家族の時間

海ほたるPAを越え、東京湾アクアブリッジでキラキラの海を渡る。スピッツをかけて大声で歌う私。まぶしそうに運転する夫。後ろでお菓子を食べ続ける娘。車で訪れる千葉はまったく知らない場所のようで、1時間ちょっとの短い時間なのに、すごく遠くに来たような気がした。

ナビに連れられるまま細い道を進むと、『チーズ工房【千】sen』の看板を発見! いよいよ、ずっと会ってみたかった噂の千代さんに会えるのだ! 番号札を受け取って外で待つと、すぐに呼ばれて中に入ることができた。

小さな工房には数種類のチーズが並び、スタッフの方にそれぞれの特徴やおすすめの食べ方などを教えてもらった。見るからにもちっとしたモッツァレラ、瓶でオイル漬けされた角切りチーズ、表面の黒さに驚く『竹炭』というオリジナルチーズ、デザートチーズ『結び』など……。どれも見たことのない、味の想像がつかないチーズばかり。

「オイル漬けは、サラダとかに乗せてもおいしいですよ」

チーズに夢中になっていて声をかけてもらうまで気付かなかった。私の隣に、あの千代さんが……!!

行商するイオさんと、チーズ職人の千代さんと!

私はミーハーなほうではないと思っているし、好きな芸能人などもあまりいない。けれど、きっとあのときの私は、憧れの芸能人に会ったときのような顔をしていたと思う。気付けば、行商しているイオさんのもとに駆け寄って「ち、千代さんにお会いしました!」と報告していた。ちなみに、チーズは家族みんなで割り勘して、ほぼ全種類を購入した。

そのあと千代さんと思う存分にお話ができ、その真っ直ぐさにますますファンになった私。実際に千代さんにお会いしてから、チーズを食べられるのはすごく幸せなことだなと思った。

『チーズ工房【千】sen』には、千代さんご自身が改装したという工房と座敷のある平屋がある。千代さんのチーズだけでなく、パンや野菜を販売している人がいたり、アーティストが演奏したり、漂うのんびりした空気に私たちは思いのほか長居してしまったように思う。娘もかき氷を食べたり、小石を集めたり、楽しそうだった。

せっかく千葉まで来たので、市原ぞうの国へ。

帰り道、せっかく千葉まで来たのだからということで、『市原ぞうの国』に寄ってみた。娘にいろいろな経験をさせてあげたいと思いながら、なかなかどこにも連れていってあげられていなかったので、家族の時間が嬉しかったのを覚えている。理由がないとなかなか家族旅行ができない私たちに千葉に来る理由をくれた、イオさんや千代さん、そしておいしいチーズに感謝だ。

喜ぶ娘を見て「もっといろいろ見せてあげたい!」と改めて思う。

ちなみに、気になっていた千代さんのチーズ。これは月に一度、千葉まで行く人が途絶えないわけだねえ、と家族みんなで頷き合った。それぞれのチーズにしっかりと個性があって、他では食べたことのないものばかり。もったいない、もったいない、と言いながらあっという間に食べてしまった。このコラムを書くのにウェブサイトの写真を見ているだけで、ああ、またヨダレが……。

千代さんのチーズと一緒に、地元のパンなども販売していた。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。