未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 食べ物、人、現実逃避。 あなたの旅の「言い訳」はなんですか?

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.181 |10 March 2021
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#2幻の和スイーツが食べたくて

「お願い、私をここに連れてって!」

アメリカに住む友人が、こんなメッセージとともにいきなり写真を送ってきた。その写真は、どうやら日本の食べ物を紹介するInstagramアカウントの投稿のようだ。

これまで何度か日本を訪れたことがあり、抹茶やきなこ、黒胡麻などの和スイーツに目がない友人。そんな彼女が、次の日本旅行の際に「どうしても、これが食べてみたい!」と唐突にメッセージを送ってくるほど熱望していたもの。それは――。

つるんと美しい「水信玄餅」。たしかにインスタ映えしそう。

まんまるの透明な玉。これは一体、なんなんだ……?

調べてみると、それが「水信玄餅」と呼ばれるスイーツだとわかった。極限まで水を含ませた寒天だそうで、食べられるのは信玄餅の本場と言われる山梨の『金精軒』。

さらに調べると、水分量が多すぎて運搬ができず「行かねば食べれぬ幻の和スイーツ」と言われていること、常温ですぐに萎んでしまうことから「賞味期限30分」と謳われていることを知った。しかも販売は土日限定。しかもしかも、オープン前から人々が列をなし、午前中には売り切れてしまうんだとか。

友人の熱に押されるようにして、私自身もこの「水信玄餅」が俄然気になってきた。どんな味なんだ? というか、味があるのか? 食感はプルプルか、とろとろか? そしてなにより、アメリカからわざわざ日本に来てくれるという友人たっての希望。できる限り叶えてあげたいじゃないか!

信玄餅の老舗、金精軒。

「よし、水信玄餅を食べに行こう!」と、私は勢いよく返事をした。

ところが、ここでひとつ問題が。電車を調べてみたところ、甲府をさらに越えた台ヶ原にある『金精軒』は意外と遠い。特に、売り切れ御免のスイーツを必ず食べたい私たちは、ある程度早い時間に着けなければ意味がない。「だめだったね、また来週来よう」では済まされないのだ。

これは、車で行くしかないか……! たいしたことではない。早起きしてレンタカーを借りて、運転して山梨に行けばいいのだ。唯一、そして一番の問題は、私が運転できないことにあった。大学時代になんとか取った運転免許はある。ただ、取得してから7年。一度も運転していなかった。ゴールド免許、ペーパードライバーである。

「少し練習すれば、行けるかも?」

友人を連れて行きたい気持ちが強すぎて、どう考えても危険な考えが頭をよぎる始末。そんな私の様子を知り、もう1人、同時期に香港から日本を訪れる予定だった別の友人が声をかけてくれた。

「日本は左側通行、右ハンドルだよね。それなら香港と同じだから運転できそう。国際免許取ろうか?」

まさに一筋の光! 私は彼女にすがるようにして国際免許を依頼した。その代わりレンタカーの手配は任せてくれと言って、どうにか面子を保った。

結局、アメリカの友人、香港の友人、私の夫と母、生後3ヶ月の娘も連れていくことにして、ミニバンをレンタルした。日本語がわからなくても運転は問題なくできるらしい。香港の友人は、何の問題もなく私たちを山梨まで連れて行ってくれた。海外でミニバンをさらりと運転する姿、めちゃくちゃかっこいい!

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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