翌日、さらに北へと向かった。せっかくだから冷麺を食べようと盛岡で東北自動車道を降りる。コラーゲンたっぷりの牛骨スープに抜群のコシと滑らかさを持った麺、そしてキムチの酸味。勢い余って注文した「激辛」は驚くほど鮮やかな赤色だった。ビリビリと舌を刺激する強烈な味覚が、俺を朝鮮半島へとトリップさせる。その昔、極寒の2月のソウルへ友達を訪ねたときのこと。クソ寒い中で彼は俺に冷麺を食べさせた。「むっちゃ寒い日にキンキンに冷えた冷麺を食べのるが通なんだぜ」。以来、俺は冬に食べる冷麺が好きになった。
ズルズルと麺をすすりながら、俺たちは旅の終着地について話し合った。津軽海峡で冬景色を眺めるか、恐山で極楽浄土の風景を眺めるか。3人の意見はすぐに一致した。「極楽浄土でしょ!」。
キレイに雪化粧をした岩手山に見送られ、俺たちは青森県に入った。取材のアポイントを入れた八戸へ。ひと昔前まで各地区にひとりいたという「イタコのメッカ」で、南部イタコ第6世代に当たる松田広子さんにインタビューを行うのだ。
イタコとは、特別な力を得て神仏と繋がる女性たちのこと。年に2回行われる恐山菩提寺の大祭に集結する彼女たちは、普段はそれぞれの地元で口寄せやお祓いを行っている。遠野で遭遇したオシラサマを供養する神事「オシラサマアソバセ」を司るのも彼女たちの役目だ。
地域住民の悩みに寄り添うカウンセラー、そして仏事と神事を執り行うシャーマン。「かか様」と呼ばれて地域で親しまれていた、とても身近な存在なのだ。
松田さんに「あの世」と「この世」について聞いた。「その2つはパラレルワールのように存在します。今を生きる人にとっての癒やしの存在が『あの世』。この地方の人々は、思いを寄せる亡き人の霊魂を呼び寄せ、その声を聞くことで、生きる勇気を得てきたのです」