八戸は日本有数の漁港としても名高い。令和元年度の水揚げ数量は全国10位。地元の超人気店「みなと食堂」で名物のヒラメ漬け丼を、八戸の郷土料理であるせんべい汁とともにオーダーする。白く輝く刺身の上に乗っかった卵の黄身をタレのしみたご飯と混ぜると、漬け丼は黄金色のTKG(卵かけごはん)に変身する。上品なヒラメと濃厚な卵のマリアージュ。何という贅沢な瞬間だろう。
みなと食堂の目と鼻の先にある「八戸市営魚菜小売市場」をぶらつく。魚や乾物を売るおばさんたちの客を呼び込む声が、港町の市場らしい活気を与えている。よそ者にはよく聞き取れない、独特の響きを伴った南部弁が飛び交い、店のトランジスタラジオから演歌が流れている。
寒さを凌ぐためにストールを頭に巻き付けたおばさんたちは、戦後の銀座で大流行した「真知子巻き」だ。恐るべし八戸。昭和のいつかで時計の針がピタリと止まってしまったかのようなこの市場の雰囲気に、ノスタルジックを感じる。「いよいよ北の果てが近づいてきたな」。そんな高揚感に浸りながら、3人はさらに北を目指すことにした。
薪割りなどに使うマサカリのような形をした、本州最北端の下北半島に向けて、国道をひたすら進む。太平洋と陸奥湾に挟まれた柄の部分は平坦で湖沼が多い。六ケ所村のあたりで陸奥湾に出ると国道はJR大湊線と並走する。途中で「横浜」という小さな町を通り過ぎた時、ちょっとだけ都会のネオンが恋しくなった。
やがて大湊線の下北駅前で観光案内所を見つけ、情報を得ようと立ち寄る。そこで驚愕の事実が判明することに。恐山へ向かう道路は冬期通行止めとなり、さらに、恐山自体が4月まで閉山しているというのだ。
まるで月面のような荒涼とした風景。「三途の川」を渡り、その先に待ち受ける100以上の「地獄」。死後の世界が陳列されたテーマパークのような不気味な空間の先に待ち受ける、極楽浄土の白い浜。あの世に最も近い風景に、俺たちはたどり着けない。。。
「ちゃんと調べとけよ」「お前こそ」「俺は『宿を調べる』って言っただけだ」、そんな中学生のような押し問答の末に、「下北半島をぐるっと1周してみよう」「大間でマグロでも食べよう」と話はまとまった。