「カップルで江の島に行くと、弁天様が嫉妬して別れるらしいよ」
そう母に言われたのは、帰宅後、お土産のタコせんべいを渡したときだったか。ええ! そんなジンクスを知らずに江の島に行ってしまった……とネットで調べてみるも、どの情報もなんだか怪しい。
そのほとんどが「江島神社に祀られている三姉妹の女神が嫉妬するから」というもの。さらに調べると、たしかに江島神社に祀られているのは、江島弁財天と呼ばれる3人の女神だ。江の島らしい海や水の神に加えて、幸福・財宝、芸事の上達の神なんだとか。そんな才能に恵まれた女神たち、とても一般市民に嫉妬するような器とは思えない。
私自身、こういう神話や噂話は好きだけれども、すごく信じる質ではないのでそっとインターネットを閉じた。遠距離になるとわかっていたアメリカ人と日本人のカップルが長続きするなんて、ジンクスがなかったところで誰も信じていなかっただろうし。
それでも、彼はどう思うかなと聞いてみると、ハッと鼻で笑った(今でもよくやる)。
「どんなカップルでも、デートしてみて合わなければ別れるでしょ」
言われてみれば、たしかにそうだ。特に江の島は、夏は暑いし、階段や山登りは結構きついし、実際疲れやすいデートスポットと言える。暑さや疲れでイライラして喧嘩になることも十分にありそうだ。そういえば、某有名アミューズメントパークにも、同じような噂があったっけ。
夫は今でも迷信や噂を信じず、私が楽しく通う手相占いも鼻で笑う。ちょっとムカつくこともあるけれど、そういう現実的なところに救われてきた面もあるのだ。
ちなみに江の島には、ジンクスや噂ではなくちゃんとオフィシャルな「天女と五頭龍」の伝説がある。
それは江の島が生まれたときのこと。かつて、村人を苦しめていた5つの頭を持つ「五頭龍」と、そこに現れた天女の話だ。悪事をはたらく龍の前に天女が登場したときに、ともに現れたのが今の江の島だと言われている。
五頭龍は天女に恋をするのだが、悪行を理由に断られてしまう。そこで五頭龍は改心して江の島を見守る龍となり、無事に天女と結婚した、という話だ。
なんだ、めちゃめちゃハッピーエンドじゃないか。
この伝説にちなんで、江の島の高台には「恋人の丘」が設置されている。相模湾を見渡す丘にある鐘を鳴らした二人は決して別れないんだとか。現実的な私たちも、やっぱりこういうものが目の前にあると弱いわけで、しっかりと鐘を鳴らして帰ってきた。