子どもが生まれた年、私たちは久々に江の島に行かなかった。昼も夜も眠れない生活に疲れ切り、猛暑のなかであの階段を登りきる自信がなかったからだ。
だから久しぶりに江の島を訪れたのは、娘が1歳になった年の結婚記念日。母が気を使って、娘を預かってくれたのだ。せっかく2人で出かけるなら、と私たちは江の島を行き先に選んだ。
江の島弁天橋から見える湘南の海はやっぱりキラキラしていて、初めての江の島から7年も経っていることが信じられないほど。数年前に来たときには、まだ娘がこの世にいなかったことが、とても不思議だった。
しかし私たちは確実に7年分の時を過ごし、そして歳を取っていた。手をつなぐ余裕もなく階段をゼエゼエ言いながら登り、無言のままとりあえずタコせんべいの列に並んだ。同じルートを回っているからこそ、自分たちの体力の衰えを感じずにはいられなかったのだと思う。
でも、いいこともあった。今までは中に入ろうとも思わなかった江の島大師に興味を惹かれ、荘厳な雰囲気のなかで展示を見たり、別ルートを見つけて知らないお店に出会ったりした。
そして最後に、島の奥から江の島弁天橋まで戻る遊覧船があるらしい! というのがこの日の大発見だった。むしろそれまで知らなかったのが不思議だが、今までは歩いて島を一周するのが当たり前。体力もあったから目に入らなかったのだろう。仮に知っていても「1人400円払うなら歩いて帰ろう」と、貧乏学生時代には選択肢にならなかったであろう遊覧船に、疲れ切った私たちはそそくさと乗り込んだ。
島から少しずつ離れていく遊覧船の上で、潮風を浴びながら「歳を取ったな」と思った。私たちはこれからもこうやって一緒に歳を取り、年齢に合わせた旅をしていくのかな。隣を見ると、夫は海もたいして見ずにぐったりとしながら「遊覧船あって、助かったね……」と言っていた。もう少し二人とも運動したほうがよさそうだ。
遊覧船を降りて振り返ってみると、なんだか龍宮城から現世に戻ってきたような気持ちだった。夕食も食べて帰ろうかと言っていたはずの私たちだったが、なんだか娘が恋しくなってそのまま家に帰ることに決めた。
ところで、夫は江の島のどこが気に入ったのだろう。改めて聞いてみたら「ほどよい」と返ってきた。
「家から比較的近くて日帰りで行きやすいし、島自体もコンパクトだから1日でぐるっと楽しめる。歴史を感じられる山道や建物を楽しんで、疲れたら休める小さいお店やスイーツがたくさんあるのもいいよね。植物に囲まれて、海の音が聞こえて、夏の日差しを浴びて――なんだろう、とにかく夏になると行きたくなるんだよ」
そう、江の島は自然たっぷりのアミューズメントパークなのだ。「次は何をしようか?」と買い食いしながら歩き回り、ほどよい疲労感とともに帰宅する。そう考えると、なるほど「デートに行くと別れる」というジンクスが、某有名アミューズメントパークと重なるのも頷ける。基本的にインドアな夫だけれど、江の島が本当に好きなんだなと伝わってきた。
次は娘も連れていこう。夫が好きだと思った小さな島が、私たちのお気に入りの場所になり、いつか家族旅行の行き先になるのだ。そうやって、家族の思い出の場所を少しずつ増やしていければいい。
ただ、ひとつだけ。子連れで行くのは「抱っこ」の時期が終わってから! と夫婦で固く決めている。だって、あの階段は自分ひとりで精一杯だもの。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。