藤里町を初めて訪ねたときに、すぐに手帳に書き込んだ予定が、「藤琴豊作踊り」だった。毎年同じ日、9月7日と8日に開催されていて、町全体が祭りの色に染まるという。
藤琴豊作踊りは、約420年前の慶長7年の出来事が元になっていると伝えられている。もともとは、秋田藩主佐竹候が水戸から秋田へお国替えの際、主君の道中の退屈を慰めるために行った家臣の道中芸。駒踊り、獅子踊り、奴踊り、万歳など、異なる要素で構成されている。現在、演者として祭に参加するのは、地区で分かれた「上若郷土芸能保存会」と「志茂若郷土芸術会」。この2つの会によって伝承されていて、秋田県の無形文化遺産にもなっている。
……というのは後で調べて知ったことで、役場のKさんに「7日に来てくれたら、その辺で私たち準備してますから。その日の夜と次の日にお祭りが見られますから!」と言われるままに、どんなものを見るかもあえて調べずに9月7日、小雨のなか、祭りの空気で満たされた藤里町に降り立った。この日は、藤琴浅間神社祭典の宵宮に当たる。
そこに浴衣姿のKさんを発見。「今年は会計で、各家に回って寄付金を集める役目があるんで、ご案内できずすみません」と慌ただしい。この後も、いつも役場で会っている人たちの浴衣姿や武士の姿を見かけるのだが、それがなんともかっこいい! これは祭りの空気が醸し出すものなのか? 和装がやはり日本人に似合うのか?
それに、私のなかのサンプルが少ないことは否めないが、藤琴豊作踊りの装束の数々は、トップクラスのファッショナブルさだ。本格的に祭りが始まる前からすでに、町民の出で立ちに完全にノックアウトされてしまった。