秋田県の藤里町のことは、仕事で行くことになるまで知らなかった。秋田県の最北端に位置し、青森との県境は世界遺産にも登録されている白神山地がそびえている。人口は3100人ほど(2020年現在)で、私が通った2017年よりもまた減っていることを今知って、地方の厳しい現実を突きつけられている。
「コンビニも駅もないんだよ」と初めて行くときに言われたが、それはむしろ魅力かもしれない。東京から最寄りの空港大館能代空港まで空路で1時間余り。そこから車で30分の距離は、ある意味便利、と私は思う。
2017年、藤里町が町おこしのためのさまざまな取り組みを模索するなかで、編集者・ライターとしてその様子を発信する役目を背負って、数回ほど藤里町に足を運んだ。
移住者のためのお試し住宅の町の紹介文には「町民全員が家族のように暮らしている」とあった。最初、「どういうこと?」と思っていたが、次第にその感じもわかるようになった。なぜなら、数度通ううちに、私は町民の100分の1以上の人に、「こんにちは。初めまして」とあいさつ済みだと気がついたから。町を歩いていると知っている顔にたくさん会う。この距離感が人口3000人~3500人の規模のなせる心地良さなのだとしたら、合併を重ねて大きくなった市町村が失ったものの大きさにため息が出る。