未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
174

いすみの車窓から始まる思索の時間 電車のなかでひらめきを。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.174 |25 November 2020
この記事をはじめから読む

#7折り紙のチーバくん

平日は混雑せず席にも余裕があるから、仕事もしやすい。

いすみ鉄道の希望の星、齋藤さんに別れを告げた僕らは、平日に運行している車両に乗って終点の上総中野駅を目指した。Wi-Fi環境は良好で、オカジマさんは早速PCを広げて、なにやらパチパチしている。PCがない僕は齋藤さんのアドバイス通り、企画を考えた。

しばらくして、気づいた。いすみ鉄道が走るエリアは、それほど劇的な景色の変化があるわけじゃない。田畑があり、山があり、川が流れている。言ってみれば、それだけ。でも、アイデア出しにはむしろそれがいいのだ。車窓からの風景が見どころ満載だと、きっとそちらに気を取られて、観光気分になってしまう。落ち着いた雰囲気の里山の風景が淡々と続くからこそ、思考の世界に浸ることができるのだ。

いすみ鉄道の車窓から。

上総中野駅で降りた僕らは、駅前の定食屋さんでランチをした後、周囲を散策した。徒歩数分の所にある中野山水神社は、明治時代の彫師、長谷川一虎作の立派な龍の彫刻が見どころだ。

地元のマダムとの心温まる交流。電車から降りたら、少し町歩きをするのがおススメ!

さらにそこから2、3分の光善寺に向かっていると、畑仕事をしていたマダムが「こんにちは! どこに行くんですか?」と声をかけてくれた。光善寺です、と答えると、ちょっと待ってて、と言ってご自宅に戻り、すぐに出てきて、「これをどうぞ」。手渡されたのは、上総中野駅周辺の観光案内と、赤い折り紙で折られた千葉県のマスコットキャラクター、チーバくんだった。オカジマさんが、「チーバくんですね! これご自分で?」と尋ねると、マダムは「はい」と素敵な笑顔を浮かべて頷いた。こういう小さな、でも予想外の出会いこそ、旅のだいご味だ。

「ぜひ、お寺の鐘をついてきてくださいね」とマダムに勧められこともあり、長い石段を登った先にある光善寺で、鐘を突いた。勢いをつけすぎたのか、「ゴーーーーーンッ」と思いのほか大きな音がして、ビックリした。集落中に響いたことだろう。苦笑するマダムの姿が思い浮かんだ。

冒頭に記したハイキングに行く女性たちと出会ったのは、上総中野駅から大原駅に向かう帰りの電車だった。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。