ワーケーションも、コロナ禍の危機に直面して生まれたものだ。コロナが流行る前の時点で、全車両にWi-Fiを搭載することが決まっていた。そのWi-Fiを活かすために、一時期、社内では「車両を利用したコワーキングスペースができないか?」とアイデアが出ていた。しかし、地元出身の齋藤さんは、自分の同世代が利用するイメージがわかず、「需要ありませんよ」と断言。代わりに提案したのが、ワーケーションだ。
「たまたま、以前に(いすみ鉄道の)国吉駅の駅舎でパソコンを開いて仕事をしている風の人を見かけて、こんなところで珍しいなと思っていたんですよ。そのことを思い出して、ワーケーションならあり得るかもと思ったんです」
社内では賛否両論。齋藤さんも、単純に動くワーケーションやります、では苦しいとわかっていた。そこで、考え付いたのがワッペンだ。
「鉄道の指定席券というものがなかった時代は、確実に着席したい人にはワッペンを購入してもらって、ワッペンを持っている人から優先的に乗車してもらっていたんです。この仕組みはコロナとは関係ない時に運転士さんからたまたま教えてもらったんですけど、ワーケーションと合わせてこのワッペンを復活させられたら、ワッペンが欲しいというお客さんも来てくれるだろうし、いすみ鉄道でやる意味もあるかなと思ったんです」
ワッペンは、オペレーション的にもメリットがあった。ワーケーション専用シートを作ると、コスト的には1日4万2000円かかるため、それはできない。でも、動くワーケーション目当てのお客さんがもし着席できなかったら、仕事にならない。ワッペン購入者の優先乗車は、この2つの課題を同時に解決するのだ。僕は齋藤さんの話を聞いて、さすがUXクリエイター!と唸った。