未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
174

いすみの車窓から始まる思索の時間 電車のなかでひらめきを。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.174 |25 November 2020
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#5懐かしのワッペン

Wi-Fi完備のいすみ鉄道

ワーケーションも、コロナ禍の危機に直面して生まれたものだ。コロナが流行る前の時点で、全車両にWi-Fiを搭載することが決まっていた。そのWi-Fiを活かすために、一時期、社内では「車両を利用したコワーキングスペースができないか?」とアイデアが出ていた。しかし、地元出身の齋藤さんは、自分の同世代が利用するイメージがわかず、「需要ありませんよ」と断言。代わりに提案したのが、ワーケーションだ。

「たまたま、以前に(いすみ鉄道の)国吉駅の駅舎でパソコンを開いて仕事をしている風の人を見かけて、こんなところで珍しいなと思っていたんですよ。そのことを思い出して、ワーケーションならあり得るかもと思ったんです」

ワーケーションのために作成した総刺繍のワッペン

社内では賛否両論。齋藤さんも、単純に動くワーケーションやります、では苦しいとわかっていた。そこで、考え付いたのがワッペンだ。

「鉄道の指定席券というものがなかった時代は、確実に着席したい人にはワッペンを購入してもらって、ワッペンを持っている人から優先的に乗車してもらっていたんです。この仕組みはコロナとは関係ない時に運転士さんからたまたま教えてもらったんですけど、ワーケーションと合わせてこのワッペンを復活させられたら、ワッペンが欲しいというお客さんも来てくれるだろうし、いすみ鉄道でやる意味もあるかなと思ったんです」

ワッペンは、オペレーション的にもメリットがあった。ワーケーション専用シートを作ると、コスト的には1日4万2000円かかるため、それはできない。でも、動くワーケーション目当てのお客さんがもし着席できなかったら、仕事にならない。ワッペン購入者の優先乗車は、この2つの課題を同時に解決するのだ。僕は齋藤さんの話を聞いて、さすがUXクリエイター!と唸った。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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