こうして5年ほどアルバイト生活を続けたものの、なかなか社員になれないという現実の壁が立ちはだかり、バイト生活に終止符を打つことに。
そして栃木・矢板の実家に身を寄せ、車で30分ほどの黒磯にある喫茶店で働き始めた。
「“実家”と言っても、私にとってここ(矢板)に住むのは、その時が初めてでした。両親は、もともと神奈川に住んでいて、リタイア後にこちらに移住したんです。私は、両親の移住先が決まったあとに初めて来て、へえ、こういうところか、おもろいなあと思ったくらいで」
そう語る通り、内田さんのご両親が移り住んだエリアは、小さな山の集落。住み始めたのは、前の土地オーナーが新潟から移築してきたという堂々たる古民家だった。
あまりよく知らないままに移り住んだが、内田さんは栃木が気に入った。
「働いていた喫茶店の先輩が古本屋を始めたり、喫茶店の周囲に新しいお店ができたりと、周囲の人や街が少しずつ変わっていくのを目の当たりにするうちに、そうか、なにも本屋さんで働かなくても、ひとりで本屋さんを運営するという形もあるんだなあ。やりたいなあと思うようになりました」
そんな時に目に入ったのが、実家の庭の片隅にぽつんと建っていたログハウス風の小屋だった。
そうだ! あそこがある、と内田さんは閃いた。
その小屋は、ご両親が家を購入したときにすでにあったもので、何の用途で建てられたのかも不明だった。
「両親が物置として使っていたのですが、ああ、あそこで本屋がやれる!って。それから、掃除をして、本を仕入れて、本棚を作って。オープンしたのは去年の12月です。あまり広く告知とかしなかったので、ひっそりと始まりました。そう、だから言ったじゃないですか。本当にびっくりするほど思いつきなんですよー」