「いやぁ、実は今の時間の上映はお客さんが0でした。厳しいなぁ」お話を伺うために時間を取ってもらったら、上野さんは悔しそうな顔で、話し出した。
「世界館ではイベントにも力を入れていますが、平日のお客さんをいかにコンスタントに呼ぶか、というのはずっと課題なんです」
世界館では、常設映画館として復活以来、劇場自体の魅力を増すため、多くの試みを続けている。人気なのは、上野さんが就任して以来続く「月一カレー会」。みんなで映画を観た後にカレーを食べながら語らうことで、劇場のコミュニティが形成されることになった。また、『バーフバリ』などのにぎやかなインド映画は客席で大盛り上がりしながら鑑賞する「マサラ上映」という上映スタイルを恒例にしにたことで、劇場のファンを増やしている。ほかにも上映映画の監督を招待してトークショーを開催したり、婚活イベント、託児付きの映画など、 小回りがきく映画館だからこその催しも持ち味だ。
が、しかし、それは「特別な日」。いかに何もない普通の日に、メインの客層であるシニアの心をつかむか、映画のラインナップに知恵を絞る。
「付き合いのある小規模な配給会社の映画を選んだり、特に目に止まった映画には『お問い合わせフォーム』から問い合わせてみたり。大きな配給会社の映画は難しいのですが、うちも4年やってきて、相手にしてくれる配給会社は増えました。でも、すべての映画を見て決められるわけではないので、とくに注目して力を入れているのは、インド映画と韓国映画ですね。インド映画は圧倒的なスケール感がおもしろいし、韓国映画は政治的なテーマとエンタメのバランスがよくて、クオリティの高いものが多いんです。裏をかえせば、チョイスで失敗したくないからこその作戦です」
素人目には、「上映する映画を選ぶなんて楽しそうだな」なんてのんきに思うけれど、上野さんの選択が興行収入に直結する。実にシビアな現実がある。
「昨年は、樹木希林さんが出演した『あん』や『日々是好日』、ナレーションをした『人生フルーツ』などを上映しましたが、どれもすごく反響があり、ありがたかったですね」
認知症を扱うなど、老いをテーマにした作品も意外に人気だとか。「個人的にはゾンビ映画が好き」という上野さん。尖った作品と王道の作品、そのバランスは常に悩みの種である。