防音性や機密性は乏しいので、映画の上映時間中はロビーでの会話もこそこそ声で。寒い日は家庭用のヒーターで劇場内を暖めたり、毛布が配られたりするのも楽しい。町から出た保全のための助成金でだいぶ修復したというが、「スクリーンの後ろには土が見えますからね」と支配人の上野迪音(みちなり)さんは苦笑い。
上野さんはまだ30代になったばかり。レトロな映画館と青年支配人の取り合わせは、少し意外だがそのギャップに興味を持ったのも事実。どうして、この仕事についたのだろう。
上野さんがUターンして支配人になったのは、大学院を卒業した2014年のことだ。高田世界館との最初の接点は、横浜の大学院で映画論を学びつつ、地元と自分との接点を探っていた頃。高田世界館を貸し切り、ドキュメンタリー映画『立候補』の上映を行ったことがきっかけだった。準備期間を含めて地域と密に関わる手応えを感じ、その後も映画館でのイベントを企画するように。就活もしていたが、街なか映画館再生委員会から「常勤の支配人としてやってみないか」と声をかけられ、その流れに乗ってみようと決めたのだそうだ。
上野さんがまだ世界館と出会う以前、2009年から2010年にかけて1席1万円で寄付を募って張り替えた椅子もところどころガタがきているといい、取材中もほころびを見つけて修繕を始めたくらい、古い建物の修理はいたちごっこだ。
でも、来場者にとっては古いイコール趣があること。天井を見上げると見事な飾りの彫刻が見下ろしているし、案内してもらった映写室には35mmフィルムの映写機が並んでいて、博物館の展示を見ているようだった。ただ、昨年デジタルの上映機を福井の映画館から譲りうけ、今はそちらを使うことがほとんどだそう。
「今は、チケット売り場で映画上映の操作もできるようになったので、すごく楽になったんですよ」と教えてくれたのは、この日パートで来ていた佐藤さやかさん。それでも、チケットを販売し、上映開始と終了時には、場内のアナウンスをし、空いた時間には館内を整え…と映画館の仕事は多い。