そういえば、最近すっかりシネマコンプレックスにしか行かなくなっていた私。そもそも「映画館」というものと遠ざかっていたと、ここにきて初めて気がついた。
「高田世界館」はしかも、1911年に建ったもの。2011年には国の有形文化財にも登録されている。白とピンクと黄土色の外観の色合いもレトロで、タイムスリップしたような気持ちにさせられる。その感慨は、館内に入ってさらに強くなった。
さまざまな時代を経て来たと実感させられる文字が、そこかしこに見受けられるのだ。私は思わず「あぁ、本当に『ニュー・シネマ・パラダイス』の世界ですね」と独り言。受付にいた女性がその言葉を聞いて、「ふふふ。たしかに近いですねぇ」とあいづちを打ってくれた。
ご存知の方も多いと思うが、『ニュー・シネマ・パラダイス』は1988年に公開されたイタリア映画で、古き良き映画館への愛が詰まった作品として知られている。その映画で見せられたノスタルジーが、ここにはたしかにあった。
入場券売り場の向かい側には、見慣れない小さな窓。「これは昔の入場券売り場ですか」と尋ねると、明治時代に「高田座」として創業した当時は、下足を預ける小窓だったという。
ここでちょっとこの映画館の歴史を振り返ろう。「高田座」は芝居小屋から1916年に常設映画館になったのを機に「世界館」に名前を変え、さらに1975年からは日活ロマンポルノ(成人映画)を上映する劇場になった。2009年に「高田世界館」と名前を変え、その頃からポルノ映画ではない旧作の一般映画などを上映するようになったが、体制が整い毎日映画を上映するようになったのは2014〜2015年頃のことだそうだ。とすると、私の幼少時代はまだ成人映画館だったはず。高田の祖母の家に預けられたとき、いくら暇を持て余しても、映画館という選択肢が挙がらなかった理由に合点がいった。
今再び、子どもからお年寄りまで楽しめる180席の常設映画館として存在するのは、「街なか映画館再生委員会」というNPOを発足し、市民が保存、活用に向けて力を注いだからこそなのだ。