安さんからひと通り説明を聞いた後は、ついに漫画タイム。僕は安さんが「雨の日にひとりで読んでいたら、怖くなって途中で読むのをやめた」と言っていた『密教僧 秋月慈童の秘儀 霊験修法曼荼羅』を手に取った。その日は雨、そして、図書館には僕ひとりしかいなかったからだ。
ほかに誰か来たら話を聞きたいと思っていたのだけど、来ないものは仕方ない。広々とした、静まり返った畳の部屋でひとりくつろぎながら漫画を読む機会など、むしろ贅沢! と思い直し、『密教僧 秋月慈童の秘儀 霊験修法曼荼羅』を1巻、2巻と読み進めた。
漫画家さんが実在の密教僧のもとに通い、「本当に起きた怖い話」を聞くという内容で、不思議な話が大好きな僕にとっては怖いというよりドキドキした。いつの間にか取材ということを忘れて没頭し、気づけば20時だった。こんなにぐんぐん漫画を読み進めたのはいつ以来だろう。写経、写仏、漫画の熟読でまさにあっという間の3時間だった。
安さんにお礼を告げて、帰路につく。不思議だったのは、最初から最後までひとりだったのに、孤独感がなかったことだ。それはきっと、ニコニコと優しい笑顔を浮かべる安さんがいるからだし、もしかしたら山崎弁栄という明治時代の名のある僧侶が描いたどこか味がある仏画のせいかもれない。