漫画の部屋には300冊ほどの漫画が並んでいる。仏教関係の漫画と言われて、どんな作品が思い浮かぶだろう? 僕がタイトルを見て「これ知ってる!」と思った作品は、手塚治虫の『ブッダ』や『聖☆おにいさん』(セイントおにいさん)『火の鳥』ぐらいで、ほとんどの作品は名前すら聞いたことがなかった。
『住職系女子』『お坊サンバ!』『病室で念仏を唱えないでください』などなど、独特のタイトルを見て思わず笑ってしまう。というより、300冊も仏教に関する漫画があるということが興味深い。意外に売れる分野なのかもしれない。
「大学の図書館にあるようなしっかりした内容の漫画もありますし、韓国語に翻訳されていて、高校の時に図書館で読んだ漫画もあります」と安さん。おすすめは『ブッタとシッタカブッタ』と『ぶっしのぶっしん』だ。
「『ブッタとシッタカブッタ』は韓国で読んで、仏教って面白いなと思いました。簡単に描いているように思うけど、仏教の奥深さが伝わります。『ぶっしのぶっしん』は、仏さまを彫る仏師のお話で、心構えが見えるんですね。これを読んで涙が出ました」
オープンから3年半、いろいろな利用者を迎えてきた安さん。「感激した」と振り返るのは、よく漫画を読みに来ている近所の子どもたちの振る舞いだ。
「ある日、ひとりの子のお母さんが迎えに来たんです。『子どもたちがいつもここに行きたがるから、どんなところか見に来ました』と言いました。そこで、私は子どもたちに『お母さんに案内できる?』と聞いたら、できる! と言って、私がいつもするように、写経や写仏もできるよ、木魚は叩き放題だよってお母さんを案内したんです。嬉しかったですね」
お寺の漫画図書館と漫画喫茶の違いはここだろう。漫画喫茶は居心地の良いひとりの世界だが、お寺の漫画図書館はいつも迎えてくれる人がいて、閉じられた雰囲気がない。子どもたちも、いつもきちんと安さんの話を聞いているからこそ母親を案内できたのだ。