福島県川俣町
福島県川俣町の山木屋地区に、住民が36年間、毎冬、田んぼに水を撒いてつくってきた天然のスケートリンクがある。
通称「田んぼリンク」を訪ねて、その舞台裏をのぞいた。
最寄りのICから【E49】磐越自動車道「船引三春IC」を下車
最寄りのICから【E49】磐越自動車道「船引三春IC」を下車
スケート靴をはいた子どもたち。氷のうえを軽やかに滑る子もいれば、ひっくり返って派手に転ぶ子もいる。お父さんやお母さんがイスに乗せて押しているのは、まだ小さい子だ。いかにもベテランという雰囲気を漂わせたおじさんは、すいーすいーっと流れるような足運びでリンクを何周もしている。
福島県川俣町の山木屋(やまきや)地区。空は青く、リンクを囲むように連なる阿武隈山地の山の木は雪をかぶって白く眩しい。気温はマイナス一度だけど、深く深呼吸したくなるぐらい気持ちがいい。でも、そんなことをしている余裕はなかった。僕の膝が、ガックガクだったのだ。つい最近、娘をアイススケートに連れて行って一緒に滑ったはずなのに、ぜんぜん勝手が違う。生まれたばかりのヤギの赤子のように、立っているのもままならない。
膝をカクカクさせながら、すぐ近くにいた人に声をかけて写真を撮ってもらった。かっこうつけてほんの一瞬、背筋を伸ばしてポーズ。うまくその姿を捉えてもらったはいいけど、次の瞬間にはへっぴり腰に戻った。
福島市から子どもを連れて遊びに来たというその男性に「慣れるまでイスを持って滑ったほうがいいですよ」とアドバイスされたはいいけど、数メートル先の椅子が僕にとってはドーバー海峡並みに遠い。
「す、す、すいません。たいへん恐縮なんですが、イスを持ってきてもらえませんか?」
僕の情けない声と姿を哀れに思ったのか、男性は苦笑しながらイスを取ってきてくれた。小学校にあったようなイスだけど、足がソリのようになっている。イスの背をつかむと確かにしっかり安定した。足首のグラグラは相変わらずだったけど、氷を蹴ると前に進む。
おおー! とイス押しスタイルで滑っていたら、5歳ぐらいの男の子に追い抜かれた。なにくそ! と足に力を込めると、ぐんぐんスピードが出る。すぐに気づいた。スケート靴の歯がまっすぐでブレーキのかけ方がわからない。調子に乗って、誰かに衝突したら困る。イスを持って前かがみのまま足を止め、なぜか息まで殺して、自然に静止するのを待った。先ほどの男の子がまたやってきたので思いっきり笑顔をつくったら、不思議そうな顔をして滑り去っていった。