未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
130

物でも思い出でもない、新しい旅のおみやげに出会う旅

「生きる術」を持ち帰る離島の農家民宿へ

文= 小野民
写真= 小野民
未知の細道 No.130 |25 January 2019
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#4「業」を背負う者の覚悟

まるふ農園に続く細い路地の前にはかわいい看板が

そもそもの話になるけれど、「まるふ」というちょっと変わった屋号の理由がHPで説明されている。

農園主 古川、女将 藤巻の「ふ」。農薬不使用、化学肥料不使用、F1種不使用、草や虫を敵としない。いろんな「ふ」をまぁるくまとめて、「まるふ」という屋号をつけました。
「まるふ農園」HP(ホームページ)より引用

ここにあるように、米や野菜を育てる方法にはこだわりがある。古川さんは弓削島に来る前は東京にいて、フランス語の書籍を専門で扱う書店で働いていた文系青年だった。しかし弓削島に移住後、小さな家庭菜園をつくったことをきっかけに進路は「農家」に。それは自分にとっても意外な選択だったという。元来、学ぶのが好きな古川さんは、試行錯誤のうちに「自然農法」に出会い、その考えをベースとした農業を実践するようになった。

自然農法とは、とてもざっくりというと、農薬や肥料の一切を使わず、耕さず、なるべく自然の仕組みや循環を生かした農法のこと。ただ、多くの実践者がいてその解釈や方法はさまざまで、厳密なルールで語るのは難しい分野だ。大切なのは、自然のありかたを尊重すること。実際、農業を始めて数年が経過した古川さんの経験で、畑の姿も次第に変わってきた。

たとえば、最初は自然農法の教え通りに決して土を耕さなかったが、状況を見て土が締まり過ぎないように耕すようになったし、山から運んだ落ち葉を施すことで、少しずつ土を豊かにする努力をしている。「どうしても野菜を育てると土から栄養を収奪する方が多くなってしまう。そこは自然任せじゃなくて、人間が補うことも必要だと思うんです」と古川さん。そのつど、自分、畑の状況、自然などの環境に折り合いをつけながら、野菜と米を育てる。

「なるべくビニール資材も使わないようにしています。普段の生活では使っているのにとも思うけれど、ビニールハウスや、除草や保温のために畝を覆う資材のマルチとなると使う量も多い。農業のように“業”がつく産業において、どんな方向を目指すかは、大切ですから。正直、使ったほうが楽だなってこともたくさんあるんですけどね」(古川さん)

この言葉を聞いて、大いに古川さんを励ます私。ここ最近、海洋プラスチック問題がより一層差し迫ったこととしてニュースになるようになった。そのニュースは、私はもとより私の幼い娘の耳にも入る。そうなると、少しでもアクションを起こそうとしている私でいたい、と考えるようになっていたからだ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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