古川さんが大切にしていることのひとつに種採りがある。「F1種」という言葉をどこかで聞いたことがある人もいるかもしれない。F1種とは、一代限りの栽培を前提としていて、人間が求める性質に品種改良されたもの。スーパーに並ぶ野菜のほとんどが規格の揃ったF1種だ。
「固定種」は在来種とも呼ばれ、それぞれの土地で代々種を採り受け継がれてきた品種。かつてはF1種はなく、育てて実ったものから種をとり、次の年に蒔くということを繰り返して、「固定種」の農産物が継がれていくのが当たり前だった。しかし、合理性を求めて来た結果、どんどん人間都合の作物が世の中には増えている。それが是か非かは、浅知恵の私が単純に言えることではないけれど、それでいいのかな、というモヤモヤはちゃんと心に留めておきたいと思った。
「僕の実感としては、F1種の方が固定種より収量が多く、ものによっては2,3倍の差が出るものもあります。固定種は生育のスピードや大きさもバラバラだし、マニュアルがない感じで、手間はかかりますね。でもね、きめ細かい感じっていうのかな。おいしいと思うものが多い。固定種にこだわるのは、種を継ぎたいという気持ちはもちろんだけれど、おいしい!自分が食べたい!というのが一番の理由ですね。」(古川さん)
いまでは、自家採種をしている、F1の種を使っていない農家は少数派だ。「種取りってやってみるとすごく難しくて、いつも必死ですね。名人は品種の特徴をよくあらわした株から種を採って、さらに株ごとに蒔き分けて生育を見比べて次の代の種を採って、と厳密にやっている。すごい世界ですよ」(古川さん)
「これが僕の採った種」と見せてくれた種は、当たり前なのだけれど、それぞれの野菜で色も大きさも全然違う。大根の種がすごく小さかったり、豆は食べる姿そのままだったり。思えば、こんなにどっさり、いろんな種類の種を一度に見たことはない。