未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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岩手から全国にはばたく毛織物 大正から続く伝統の「ホームスパン」

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.255 |25 April 2024
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#5機械紡ぎでは実現できない「軽さ」の秘訣

織り終わったものを見てみると、目と目の間に隙間があるもの、ヘリンボーンのように柄があるもの、デザインはさまざまだ。もちろん、マフラーの先端にあるフリンジまで、手でねじり合わせている。

「なんでわざわざ時間をかけて手紡ぎや手織りでやってるかと言うと、機械だと、この軽さを実現できないからなんです。手紡ぎはね、空気を含んでいるんです。だからふわっと軽いし、湿気を逃してくれるから心地よいあたたかさが続く。機械紡ぎだとギュッと詰まっていて固く、重い。それに均一な糸で綺麗な製品もいいけれど、ホームスパンのような面白みはないでしょう」

木の桶で一枚ずつ手洗いする(写真提供:みちのくあかね会)

織り終えたものは、桶で一枚ずつ手洗いをする。「縮絨(しゅくじゅう)」と呼ばれる仕上げ作業だ。

つい「機械で一気に洗った方が......」などと思ってしまう自分に気づく。なんでも「効率的」に考えようとするのは悪い癖だ。

「手洗いだからこそ出せる風合いがあります。軽く押し洗いすると、糸が絡んで生地がしっかりするんです。フェルトっぽくなるというか。温度や力加減によって製品が固くなってしまったり、仕上がりが変わってしまうので、難しい作業です」

これらが完了するまでに、どんなに急いでも1カ月程度かかる。そのため価格は決して安くはないが、長く使える質の良さがホームスパンの魅力なのだそう。「経年による質感や風合いの変化を楽しんでほしい。だんだん肌に馴染んできますよ」と渡辺さんは話す。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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