ホームスパンには、大きく6つの工程がある。
まず通された場所には、ふた口コンロと、数十人分のカレーが作れそうな大きな寸胴があった。ここだけ見ると、まるで厨房のようだ。
「作るものに合う羊毛を選んだら、寸胴で染色します。単色のように見える糸も、実は数種類の染料を混ぜているんです。深みが出て、光や角度によって見え方も変わるんですよ」
近くにかけてある糸に目をやる。深くて渋みがある濃い青や、雨の日を連想させるような水色。確かに角度によって白っぽくも見えるし、艶やかにも見える。
奥に進むと、カード機と呼ばれる大きなローラー付きの機械があった。機械の前後に、それぞれ人が立っている。ここから、「カーディング」という作業に入る。
ひとりが、片方からまばらな羊毛を流す。すると反対側から、きれいに整った状態で出てきた。こうして繊維を揃えて、糸を紡ぎやすくするらしい。
この日カーディングしていたのは、白の中に濃いピンクと薄いピンクが混ざった、なんとも春らしいデザイン。よく見ると、ほんの少しカーキ色の毛も混ざっている。ピンクの可愛らしさが、カーキ色によって引き締まって見える。
デザインを担当した渡辺さんは「そう、アクセントにカーキを入れたんですよ」とほほ笑む。
「カーディングの回数によっても、色味の出かたが変わります。1回だとまだらに色が残って、糸の間にちょんと表情がある、面白いものができるんです。2回カーディングすると、色がわからないくらい混ざっちゃう。そのほうが糸として紡ぎやすいし、あえてそういうデザインにすることもありますね」
どの色を何割ずつ配合したかはすべて記録し、同じ製品を生産する仕組みはできている。しかしよく見ると、同じデザインでも糸が見せる表情が違う。手仕事ならではの「1点もの」ができあがるのだ。