未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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岩手から全国にはばたく毛織物 大正から続く伝統の「ホームスパン」

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.255 |25 April 2024
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#2手仕事ならではの「1点もの」

ホームスパンには、大きく6つの工程がある。

まず通された場所には、ふた口コンロと、数十人分のカレーが作れそうな大きな寸胴があった。ここだけ見ると、まるで厨房のようだ。

大きな寸胴で、羊毛を染色する(写真提供:みちのくあかね会)

「作るものに合う羊毛を選んだら、寸胴で染色します。単色のように見える糸も、実は数種類の染料を混ぜているんです。深みが出て、光や角度によって見え方も変わるんですよ」

近くにかけてある糸に目をやる。深くて渋みがある濃い青や、雨の日を連想させるような水色。確かに角度によって白っぽくも見えるし、艶やかにも見える。

染色し、紡がれた糸。角度や光によって見える色が異なる

奥に進むと、カード機と呼ばれる大きなローラー付きの機械があった。機械の前後に、それぞれ人が立っている。ここから、「カーディング」という作業に入る。

ひとりが、片方からまばらな羊毛を流す。すると反対側から、きれいに整った状態で出てきた。こうして繊維を揃えて、糸を紡ぎやすくするらしい。

  • 染色後、数色の羊毛を、決められた割合でカーディングする
  • 繊維が整った羊毛が出てくる
何重にもなると、わたあめのようにふわふわに

この日カーディングしていたのは、白の中に濃いピンクと薄いピンクが混ざった、なんとも春らしいデザイン。よく見ると、ほんの少しカーキ色の毛も混ざっている。ピンクの可愛らしさが、カーキ色によって引き締まって見える。

デザインを担当した渡辺さんは「そう、アクセントにカーキを入れたんですよ」とほほ笑む。

「カーディングの回数によっても、色味の出かたが変わります。1回だとまだらに色が残って、糸の間にちょんと表情がある、面白いものができるんです。2回カーディングすると、色がわからないくらい混ざっちゃう。そのほうが糸として紡ぎやすいし、あえてそういうデザインにすることもありますね」

どの色を何割ずつ配合したかはすべて記録し、同じ製品を生産する仕組みはできている。しかしよく見ると、同じデザインでも糸が見せる表情が違う。手仕事ならではの「1点もの」ができあがるのだ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
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