クマへの信仰は、オホーツク文化やアイヌ文化に限らず、北方民族の間で広く行われてきた。そういった祭礼、儀式、宗教や芸能にまつわる展示も充実している。野口さんとそのエリアを巡っていて耳を疑ったのは、「歌」に関する解説だ。
「グリーンランドのエスキモーは、歌合戦をします。それが、今でいうラップバトルなんですよ。普段、直接人に悪口を言ったり、なじったりするような人たちではないんですけど、歌合戦の時に歌で互いをディスるんです。ここでは、ひとりの女性をどちらがお嫁さんにするか、歌いながらふたりの男が言い争っている映画のワンシーンを流しています」
ええ!? おもしろ過ぎない!? さすがに「ラップバトルのルーツがグリーンランドのエスキモーに!」と思わないけど、人間っていつの時代も、どんな環境に住んでいても、似たようなことを考えつくんだなあ。ラッパーとエスキモーのバトルを見たいと思うのは、僕だけではないだろう。
その後、狩猟の資料コーナーで「世界にひとつしかない」という北方民族博物館の秘蔵品などを見て周り、野口さんとのツアーは幕を閉じた。気づけば2時間弱。まったく飽きることなく最初から最後まで楽しめたのは、野口さんの硬すぎず、柔らかすぎない絶妙な解説のおかげ! なんだけど、実は北方民族博物館で働き始めるまで、北方民族の専門家じゃなかったと聞いて驚いた。さらに、元会社員という異色の学芸員だった。