最後にラオス食材店について尋ねると、ビルン会長が車で案内してくれた。
愛川町で唯一、ラオス人が経営しているお店なのだという。
車を9分ほど走らせたところで県道65号線沿いにある「タイ・アジアン」。ラオス産の食材はほぼないが、ラオス料理のほとんどはタイ食材で作れるようだ。ラオス人はみんなここで食材を調達する。
ビルン会長にラオス人に人気のある食材を教えてもらった。
「ラオス人はゲーンノーマイが好きですよ」
ゲーンノーマイは、たけのこを香草やレモングラスと一緒に煮込んだスープだ。独特の香りが特徴で、一度食べると癖になる。日本でいうところの肉じゃがのような存在。ヴィエンチャンのゲストハウスで働いていた女の子ゲンが「私の得意料理なのよ」と作ってくれたことを思い出した。
久しぶりに食べたくなった私は、一通りの材料を購入。家に帰って作ってみることにしよう。簡単なレシピを教えてもらい、お店を後にした。
待ち合わせに2時間も遅れたせいで、外はもう真っ暗だ。
「ラオス文化センターはいつでも開いてるから。行事があるときはラオス料理がたくさん食べられるよ。また来てください」
ビルン会長はそう言って車に乗り込むと、とびっきりの笑顔で手を振って去っていった。
次は家族も連れて行こう。可能であれば毎週通いたいくらいだけど。愛川町を去るとき、私が初めてラオスへ行った帰り道に湧いた「また絶対に来よう」と思った感情が蘇る。次は町内の東南アジア寺院を回るのもいいな、などと考えていた。
「良い時間だったね」サーンさんが帰りの車内で呟く。
「最初に悪いことが起こると良いことが来る」
これはラオスのことわざだよ、と教えてくれた。
後日、ゲーンノーマイを作ってみた。教えてもらったとおりに鶏ガラでスープを取り、きのこ類や野菜を「タイ・アジアン」で購入した材料と一緒に煮込んだ。ラオスで食べたゲーンノーマイの味には届かなかったけど上等な仕上がりだった。一見あまりおいしそうに見えない茶緑色のスープを見た娘達は、「なんだこれー」といいながらぺろっと味見をすると、忙しそうにぱくぱく大きなスプーンを口に運んだ。
「ラオス料理また作ってよ」
お皿を空にした娘たちは、にこにこと笑っている。