石川県鳳珠郡穴水町
この上なく個性的な神事を見物しに、離島のような風情が漂う、本州最奥の地へ。
最寄りのICから【E41】能越自動車道「穴水IC」を下車
最寄りのICから【E41】能越自動車道「穴水IC」を下車
生まれてはじめて能登にやってきた。地中海に突き出すブーツ型をしたイタリアを逆さまにしたような半島を機上から眺めていると、何だか不思議な気分になった。というのも、小さな山と丘が大地を埋め尽くし、その隙間に田畑や集落が広がるという、日本であまり目にしたことがない風景が広がっていたからだ。調べてみると、能登半島の最高峰は宝達山という山なのだが標高は637mほど、大半は200~300m程度にとどまる。高い山がひとつもなく、かといって平野が開いているわけでもない独特の地形をしている。その日はどんよりと曇り、薄ら寒く、いつ雨雪が降り出してもおかしくないような、初冬の北ヨーロッパのような空に覆われていた。そのためか、異国情緒は一段と増しているように思えた。
外国の小さな空港に降り立った気分で到着ロビーに出た私は、無性にコーヒーが飲みたくなり、空港職員さんにどこで買えるのか聞いてみた。すると「車で5分ほど走るとコンビニがありますから」と教えられ、その瞬間に私は現実に引き戻された。そうだった。私はとある伝統行事を見学しに石川県にやってきたのだ。
コンビニで買ったブラックコーヒーを啜りながら、私はとある民家へと向かった。そこは空港からすぐ近くの穴水町にある集落にあった。丘陵地帯のわずかな低地を切り開き、数軒の家屋が肩を寄せ合う小さな農村だ。私はすぐに目的の民家を見つけ出し、門を叩いた。
広々とした古民家の台所では、女性たちが食事の準備に勤しんでいた。30畳以上ありそうな広間には囲炉裏があり、家の主である森川祐征さんが袴に着替えて椅子に腰を掛けていた。奥にはふたつの床の間が並んでいて、それぞれに「天照皇大神」「田乃神様」と大きな掛け軸がそれぞれにかけられている。特に「田乃神様」の床の間は、掛け干しされた稲と米俵で装飾されている。もうすぐ儀式が始まるそうだ。彼らの足手まといにならぬよう、私は家の外に出て待つことにした。