一軒目から大満足の僕は、期待が膨らんだ。二軒目は「スライスしたリンゴがたっぷり載っていて写真にも映える」(高谷さん)というケーキ店「アンジェリック」へ。ところがなんと、「臨時休業」の看板が……。
それでも、コンシェルジュのふたりに焦りはない。「じゃあ、別の店にしましょうか」とハンドルを切り、わずか数分で目的地に着いた。さすが、コンシェルジュ! 頭のなかには「おいしいアップルパイの店」の名前と場所がインプットされているから、おススメの店が突然の休みでもすぐに切り替えられるのだ。ちなみに、高谷さんも北川さんも、もともと無類のアップルパイ好き! だったわけではないという。
「私がタクシードライバーになった頃、日本ご当地タクシー協会ができたんです。専任のドライバーが地元のグルメをガイドするんですけど、うちの会社も協会に加盟したのを機に、2018年、アップルパイタクシーを始めたました。私は甘いものを好んで食べるほうではなかったんですけど、ほかの女性ドライバーと一緒にアップルパイコンシェルジュをやってみようかという話になって、試しにアップルパイを食べてみたら予想以上においしかったんです」
アップルパイに対してなんとなく「古臭い」と感じていた高谷さんだが、そのネガティブなイメージを覆されて探究心が刺激され、これまでに40軒ほどでアップルパイを食べてきたという。
「もともと車であちこちに行くのが好きだった」という北川さんは、15年ほど前に社内で観光タクシーのドライバーに任命された。それから図書館に通い、資料を読み漁って弘前市の歴史や地理などを学び、幅広い知識を身に着けた。
とはいえ、リンゴやアップルパイは専門外で詳しくなかったのだが、アップルパイコンシェルジュの社内資格ができる時、高谷さんたちと一緒に勉強会や試験を受けて合格。女性ドライバーが休日の日に予約が入った時、ピンチヒッターを務めるようになった。その後、観光タクシーのドライバーを引退し、アップルパイタクシーの担当に。
「食べてみたらおいしかったんで、今ではスーパーで見かけると買って食べちゃいます」と語る北川さんがこれまでに訪ねたお店は15軒ほどで、「まだまだですね」。「弘前は和菓子屋さんでもレストランでもアップルパイを売っています。歩けばアップルパイに当たる町なんです」と笑顔を見せる。