最初に向かったのは、弘前城前にある1979年創業の珈琲専門店「可否屋葡瑠満(コーヒー屋ブルマンと読む)」。店主の宮本孝紀さんは1970年代に銀座で店を構えていた会員制の喫茶店「可否屋葡瑠満」の元店長で、故郷の弘前に戻った23歳の時、のれん分けで店を開いたそう。
カウンターの向こう側にある食器棚には、ずらーっとコーヒーカップとソーサーが並ぶ。老舗らしい落ち着いた雰囲気が、心地いい。ふたりのコンシェルジュが事前に取材の話をしてくれていたようで、カウンターに腰掛けるとすぐに弘前でアップルパイが脚光を浴びるようになった背景を教えてくれた。
「15年ぐらい前、弘前で奈良美智さんの個展があったんです(筆者駐 恐らく「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」/2006)。その時に市内の飲食店で特色あるものを出そうということになって、最初はリンゴのスイーツから始まったんです。それから時が流れて、アップルパイに絞られていったんですよね」
どうぞ、と出されたお皿の上には、品のあるこぶりなアップルパイ(400円)。青森県で生まれ、日本で最も多く作られている品種「ふじ」を使用している。宮本さんの奥さんの実家がリンゴ園をしていて、そこから「生で食べてもすごくおいしい」完熟のふじを1年分、買い取り。リンゴを長期保存するための専用袋に入れて、0度まで冷える特殊な冷蔵庫で保存しているため、1年経ってもフレッシュな味わいを保てるそうだ。