1曲目が終わり、房総楽竹団の11人(団員は12名だが当日は1名お休み)が入場を終えると、男性がマイクを取った。団長のひとり、木下卓巳さんだ。
「今みんなで演奏していたのは『手マウイ』という楽器です。竹の切り口をスポンジで叩くのですが、竹の長さを調節することで音階のような音程が出せる仕組みです」
木下さんは、NHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団などで活躍するプロの打楽器奏者だ。同じく打楽器奏者で、妻である長谷川友実さんとともに、房総楽竹団の団長を務めている。
木下さんが打楽器を始めたのは、小学校6年生の時。友達のお母さんが立ち上げたユースオーケストラに「次の演奏会、打楽器が足りないから出てみない?」と誘われたのがきっかけだった。
「叩いてみたら、楽しかったんですよね。もともと音楽好きの父の影響で、家にたくさんのCDやドラムセットがあって、音楽を聴くのがすごく好きでした。打楽器って、オーケストラのなかでは演奏する時間がとても短いんですね。だからずっと弦楽器や管楽器の音を聴いてるんですけど、それもすごく好きなんです」
楽譜が読めるようになるとますます演奏がおもしろくなり、中学・高校と吹奏楽部に所属。国立音楽大学・打楽器科を卒業し、そのまま音楽の道へと進んだ。
打楽器のプロが、なぜ、千葉で竹を叩いているのか。そこに辿り着くためには、木下さんと竹の出会いを作った「東京楽竹団」という団体を紹介する必要がある。東京楽竹団は、日本に深く馴染みのある竹という素材の可能性を広げるために、2008年に作られた団体。プロの音楽家が集まり、自分たちで日本各地の竹で楽器を作り、演奏している。
「東京楽竹団に所属していた大学の先輩に『聴きに来たら?』と誘われて、妻と行ってみたのがきっかけです。国分寺のお寺でコンサートを聴いた時に、もう衝撃を受けて」
一体どんな衝撃ですか? と前のめりになって聞いてみる。
「竹で、こんなにいろいろな音が出せるんだ! とびっくりしました。楽しい曲はもちろん、お寺の雰囲気と竹の音色が相まって迫力のある曲まで。これはすごい! と感動してしまったんですよね。すぐに『なんでもいいから、とにかく関わらせてください』とお願いしました」
そこから、練習を見学したり、実際に竹切りにも参加させてもらうようになった木下さんと長谷川さん。2009年には、東京楽竹団のメンバーとして活動を始めた。