未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
208

噴出したての温泉に浸かるぜいたく 「湯の鮮度」を求めて蔵王温泉へ

文= Numa
写真= Numa
未知の細道 No.208 |25 April 2022
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#5これぞ温泉なり。

浴室には先客がいた。小さな共同湯では、目が合うと自然と会話がはじまるもの。男性は毎年必ずスキーで蔵王温泉を訪れているそうだ。いつも決まった宿に泊まり、そこにスキーを置いてあるほどの常連さんだった。

「帰る日の前の晩にはここに来ることが多いかな。体が芯から温まるし、ほかの共同湯よりも人が少ないからね」

川原湯が日本でも数少ない足元湧出温泉だということを、その男性は特に気にかけていないか、そもそも知らないようだった。ここがどれほど貴重なな温泉なのか、私は彼に説明したい衝動に駆られたものの、やめておいた。会話が途切れてからも、男性は念仏のようなひとり言を繰り返し、やがて別れのあいさつを言い残して去っていった。

ひとりになった私は、ひまを持て余し、彼の念仏のようなセリフを真似してみた。

「これぞ温泉。これぞ温泉なり」

湯の花が舞う浴槽の下を眺めると、ポコポコと絶え間なく、新鮮な湯が湧いていた。

板張りの浴室に薄っすらと白濁した湯。ニッポンの温泉風情を象徴する蔵王温泉の共同浴場。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。