お察しの通り、きのこ狩りの経験はない。自然に身を置くことは決して嫌いじゃないけれど、いつも「連れてってー」と受け身のヘタレ系である。森の写真を撮るという夫にくっついて歩くために、慌ててトレッキングシューズを買ってもらったりというレベル(自分で買えよ)。森にも山にも憧れこそあれ全然詳しくないのだ。
今回のきのこ狩りも、「武蔵五日市駅からは車だよ。きのこ名人が私たちを拾ってくれるから」という言葉に甘えまくって、目的地もよく聞いていなかった。だから、東京都に村があるなんてことも知らなかった。そう、島嶼部を除くと東京に残された唯一の村、檜原村である。
駅前で乗っけてもらった車を運転しているのが蜂須賀さん、智美ちゃんの美大時代からの知り合いで、その彼こそがきのこ名人ハチさんだった。野生食材料理家として本を出版されていたり、初代東京都レンジャーとして公園の自然を管理していたなどというプロフィールはその時点では知るよしもなく。ただ、後部座席から振り返ったトランクに仕込み材料や調理器具やらが積まれていて(とっても頼もしそうな隊長さんだ)と確信した。助手席には、やはり古くからの友人というケモノアーティスト(フェルトを圧縮して造る動物たちが素晴らしい!)ののんちさん、毎回きのこ料理の助手を務めるいわば副隊長さんだ。旧知の3人が楽しそうだから、新参の私もすぐに楽しくなってきた。
檜原街道のなだらかな登り坂、前方には緑ふっさふさな山が両手を広げている。 「あ。これから先、お昼食べるところないよ」と運転しながら思い出したように告げるハチ隊長の言葉に実は少し動揺もしたのだが、ほどなく「だったらハチさん。途中であの豆腐屋さんに寄って欲しいな。おからドーナツを食べよう」という智美ちゃんの言葉が私を救ってくれた。