佐渡島に行ったのは、フランスから移住してきたワイン醸造家、ジャン=マルク・ブリニョに再会するためだった。彼のことは、6年前にこの「未知の細道」で取り上げた。あのときすっかり意気投合した私たちだったが、その後はなかなか会う機会はなかった。
6年ぶりに再会したジャン=マルクは、いまも佐渡産のワインを作ることを目指し、小さなヴィンヤードで葡萄の栽培に奮闘していた。彼が考えるようなワインができる日はまだ遠そうだが、この2年ほど彼は北海道のワイナリーと組んでワインを作っていた。そのロゼのスパークリングを開けながら、私たちはたくさんの話をした。
とはいえ、今回はあくまでも宿根木の話である。
ジャン・マルクの家をあとにした私たちは、佐渡島の南端を目指し、ドライブ。途中、ワイルドな山道や田んぼのなかの道を突っ走っていく。ちょっと忘れていたが、佐渡島は実は東京23区よりも大きい。40分ほど運転し、ようやく島の南端に到着した。集落の中までクルマが入ることができないので、少し離れた駐車場にクルマを停め、歩いて向かう。
そうして集落に入ったとたん、独特の静けさに全身が包まれ、「わあ……」とため息をついた。あちこちから水の流れる音がしているが、聞こえてくる音はそれくらいだった。集落の道幅はとても狭く、すれ違うのがやっとというような路地が網目のように続く。路地は複雑に絡み合い、ところどころで細い水路が道を横切る。
驚くのは家の密集度と家屋のデザインである。崖と海に挟まれた狭い谷間に、ぎゅぎゅぎゅ! と家が立ち並んでいる。資料によると、地区内の建造物は106棟。そのほとんどが木の板が縦に張り巡らされた2階建ての家で、道路に面した側には窓や開口部がほとんどない。この特徴的な外壁は、日本海から吹き付ける潮風から建物を守るためだそうだ。さらに、日本の家のほとんどについてくる庇もないときている。だから、両脇に家が迫った細い路地を歩いていると、ただ高くそびえる木造の壁だけが見える、という状況に陥る。
いままで、様々な古い街並みが残る場所に行ったものだが、こんな木の板をずらっと並べたような奇妙な街並みを見たのは初めてだった。一見するととても質素だったが、建物の高さといい、デザインといい、見事な統一感で、とても美しかった。