未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
187

『旅の思い出』編 知られざる北国のソウルフード 100年以上続く「津軽そば」の味わい

文= Numa
写真= Numa
未知の細道 No.187 |10 June 2021
この記事をはじめから読む

#5ラーメンも愛する人々

お客さんの多くがラーメンを注文してることに薄々気づいていた。どうやら地元の人は、必ずしも津軽そばが目当てでここへやってくるわけではないらしい。お腹はだいぶ満たされていたものの、がぜん食べてみたくなった。なにせ青森県は中華麺購入数量も人口に対するラーメン店舗数も全国トップクラスという、日本有数の「ラーメン県」なのだ。

サバ節から取ったという、キリッとした魚介系スープに自家製の縮れ麺。チャーシュー、ネギ、なると、メンマのトッピング。中華そばの王道をゆく、シンプルだけれど五臓六腑に染みわたる、深い味わい。こだわりの自家製麺も、打ちたてではなく一晩寝かせたものを使用している。「その方が味がしっか馴染むから」という、この食堂の流儀だ。隣の男性が話を続ける。

「弘前公園へ桜を見に行くときは、三忠食堂の出店で必ずそばを食べる。あのレトロな看板は祭りの風物詩だしね。あとは大晦日とか、節目の時にね」

「津軽百年食堂」として弘前市民が愛する、どこまでもノスタルジックな三忠食堂。いつの日か、その味が時代から取り残されてしまったとしても、彼らは昔ながらの津軽の味を提供し続けるだろう。「やっぱり、このそばじゃないと!」という声に応えるために。

三忠食堂を切り盛りする黒沼さんたち。ユニフォームの絵柄は、弘前さくらまつりの名物となっている出店の看板。

※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。