お客さんの多くがラーメンを注文してることに薄々気づいていた。どうやら地元の人は、必ずしも津軽そばが目当てでここへやってくるわけではないらしい。お腹はだいぶ満たされていたものの、がぜん食べてみたくなった。なにせ青森県は中華麺購入数量も人口に対するラーメン店舗数も全国トップクラスという、日本有数の「ラーメン県」なのだ。
サバ節から取ったという、キリッとした魚介系スープに自家製の縮れ麺。チャーシュー、ネギ、なると、メンマのトッピング。中華そばの王道をゆく、シンプルだけれど五臓六腑に染みわたる、深い味わい。こだわりの自家製麺も、打ちたてではなく一晩寝かせたものを使用している。「その方が味がしっか馴染むから」という、この食堂の流儀だ。隣の男性が話を続ける。
「弘前公園へ桜を見に行くときは、三忠食堂の出店で必ずそばを食べる。あのレトロな看板は祭りの風物詩だしね。あとは大晦日とか、節目の時にね」
「津軽百年食堂」として弘前市民が愛する、どこまでもノスタルジックな三忠食堂。いつの日か、その味が時代から取り残されてしまったとしても、彼らは昔ながらの津軽の味を提供し続けるだろう。「やっぱり、このそばじゃないと!」という声に応えるために。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。