未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編「センス・オブ・ワンダー」と出会う旅 全国の野外芸術祭を巡ってきた20年間

文= 小野民
写真= 小野民
未知の細道 No.185 |10 May 2021
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#2社会人、旅のコーディネーターになる

大学生になってからも、大地の芸術祭通いは続いた。大地の芸術祭は3年に1度の開催なので、大学1年生と大学4年生の時に行ったはず。2003年にも、磯辺行久さんは作品を制作していて、「信濃川はかつて現在より25メートル高い位置を流れていた?天空に浮かぶ信濃川の航跡」というとんでもなく長いタイトルがついていた。

これは、河岸段丘に1万5000年前に川が流れていたところ、1万年前に川が流れていたところ、と水面をラインで示している。「大地創生の痕跡を直に見る」装置に、私はまた「すごい!」とのけぞった。その「すごい」を原動力にアーティスト磯辺行久とその作品についてのレポートを大学の授業で書いて、良い評価をもらったことを覚えている。ちなみに私は美術系の大学ではなく、一般の大学で社会学を学んでいた。一体なんの授業だったんだろう。

社会人になって数年後の2010年、「瀬戸内国際芸術祭」が始まった。瀬戸内海の島々を舞台にした芸術祭で、これまた3年に1度の開催。初回は、まだ幼かった甥っ子も一緒に、サンライズ瀬戸という寝台特急に乗って出かけた。以来、3年に1度の熾烈なチケット争奪戦に参戦し、寝台特急のチケットをゲットしている、と書きたところだが、取れない時もあるくらい人気。電車の中で迎える朝、朝日と瀬戸内海の取り合わせが最高に気持ちいいのだから無理もない。

直島「ベネッセハウス ミュージアム」にあるニキの「腰掛」と私

私も大人になって、それからの大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭は、友人たちと行くことも多くなった。夏、炎天下の中でアートを巡り、夜には語らう旅が大好きで、その時々で個別に声をかけたり、ある時はバスをチャーターして大勢でツアーをしたり……。海や山が近い場所で自然を感じながら巡るアート旅は、どうやったって人の心を解放する。誰とのどの旅も、詳細は思い出せなくてもしっかりといい感触が残っている。

2013年、友人たちと瀬戸内の島々を巡る旅の1コマ
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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