未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
155

「これからもきっと変わらない」港町に、幸せのカタチがあった 真鶴半島の「泊まれる出版社」

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.155 |10 February 2020
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#8『美の基準』が守るものとは

ツアーの途中で、ユニークな建物に寄った。
小さな花壇がある中庭があり、石と木でできた温かな雰囲気の木造の建物だ。長い間大切にされてきたその建物は、「コミュニティ真鶴」、街のコミュニティセンターである。
ここは、ただ人が集う場所というわけではなく、もう一つ重要な役割を担っている。
「コミュニティ真鶴は、真鶴の『美の基準』を形にした場所なんです。どこらへんが?と聞かれると、もう建物全部がそうで、ここに花が植えてあるのも、屋根の形も、石垣に使われている素材も」(友美さん)

「コミュニティ真鶴」には日常的に街の人々が集う。

『美の基準とは』は1993年に制定された真鶴独自のまちづくり条例で、建物と街並みの調和や、建築材料、装飾などの観点から「真鶴らしさとはなにか」を後世に伝えるものだ。しかし、単なる建築基準でもなく、「静かな背戸」「少し見える庭」「小さなひとだまり」「さわれる花」「実のなる木」など、真鶴らしい暮らしや日々の営み、コミュニティのあり方も提案する。
そう、『美の基準』こそが、この街の秘密だった。
なぜ真鶴にはなぜたくさんの路地が残っているのか。
なぜあちこちに草花、生垣、レモンの木があるのか。
なぜ高い建物が目に入らないのか。
なぜ住民の交流やコミュニティが残っているのか。
一見するとごく平凡にも見える“居心地の良い暮らし”。それは、長い間『美の基準』として住民が守り続けてきたもの。
そして、『美の基準』はいまもなお人々を魅了し続けている。
「『美の基準』は、地元の人にとってあたりまえにあるもので、無意識に街を守ってくれる存在です。『美の基準』はむしろ、僕たちのような、外から来た人や開発業者のためにあるのだと思います。真鶴では、この先も突然、巨大なチェーン店ができたり、高い建物がばーんと建ったりしないし、コミュニティが分断されることはないでしょう。この先もずっと変わっていかないことが僕たちにとっての魅力なんです」

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