未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「これからもきっと変わらない」港町に、幸せのカタチがあった 真鶴半島の「泊まれる出版社」

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.155 |10 February 2020
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#5「泊まれる出版社」ができるまで

真鶴はいいよ、という知りあいの言葉を頼りに、駅におりたったのは、移住先を探し始めてすぐのタイミングだった。
「その日は雨で、静かな街だな、いい街だなというのが第一印象でした」(友美さん)
しかし、まだ移住を決めるには至らず、その後も小豆島や徳島の神山などを訪ね歩いた。
そんななか、真鶴役場が移住希望者に向けて家を提供し、「お試し暮らし」という企画を開始したことを耳にする。すぐに申し込んだ。
「実際に真鶴で暮らしてみると、わりとすぐに自分たちが求めるものがあると実感できました。街の小ささとか、街の人のウェルカム感とかもあったと思うんですけど、すぐに道端で挨拶する人が増えて、知り合いもどんどん増えました。この人たちがみんな同じ街にいるんだと思うと、すごく安心感を感じて……」(友美さん)

二週間後、ふたりはめでたく「お試し暮らし」企画の移住者第一号になった。

家を借り、生活をスタートしてみると、真鶴の街には、豊かな営みがあった。港では新鮮な魚が陸揚げされ、住民たちが干物や海苔を作る作業が垣間見えた。特に平日は訪れる人も少なく「流れる時間がゆっくりでした」と川口さんは語る。

とはいえ、仕事の面を見ると、最初から順風満帆だったわけではない。出版社を立ち上げたはいいが、どんな出版企画を進めたらいいか決められず、ただふたりでミーティングを重ねる日々が続いた。また、宿を始めようと決めたまではいいが、物件は少なく、なかなか良い場所が見つからなかった。
やがて貯金も少なくなったころ、最初から大きなことを目指すのではなく、できることから小さく始めよう方向転換。まずは、街の地図を作ることにした。『ノスタルジック・ショートジャーニー』という町歩きマップだ。
結果的には、この地図がその後の活動の基礎になった。
地図が名刺がわりとなり、地域の人や役所の人に「真鶴出版」の活動を知ってもらえた。そして、PR冊子の編集などを相談されるようになり、出版活動がスタートする。同時に、自宅の一室を旅行者に開放し、民泊を開始した。
これが、泊まれる出版社、「真鶴出版」の出発点となった。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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