東海道線の真鶴駅に降り立ったのは、細かい雨が降る寒い日だった。小さな駅舎には真鶴半島の地図が張ってあり、ちょこんと突き出した半島の形が翼を広げた鳥に似ていた。
この雨はいずれ雪に変わるのかなあ。
そう思いながら長い坂道を降り、携帯の地図アプリを頼りに「真鶴出版」を目指す。駅から坂を降り、歩いて数分。パン屋さんやピザ屋さんを通り過ぎ、この辺かなと周囲を見回す。いや、違うか……。
どういうわけか、地図上の矢印は、道路に面してない場所を指している。改めてメールに書かれていた案内文を読み直すと、
「駅から真鶴町役場に向かって歩いてくると、左手に茶色い看板があります。看板の前を通って細い路地へお進みください。看板後ろの大きな路地ではありません」
とある。
看板の前の路地って……?
そう言われると、確かにものすごく狭い路地があった。
まさか、あの路地の先?
半信半疑で進むと、オレンジ色の淡い光が漏れた民家が見え、小さく「真鶴出版」の文字。
わお、これは、本当の隠れ家だ、と心から感動した。
日本全国のいろんな宿にいったけれど、間違いなくいままでで一番見つけにくい宿の入り口だった。