未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「世界標準のものさし」を生んだ奇跡 水月湖の地形と年縞博物館

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.150 |25 November 2019
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#6年縞は世界のものさし

さて水月湖の年縞は「世界標準のものさし」と呼ばれている。これがどういう意味なのか、年縞博物館の学芸員、長屋憲慶(ながやかずよし)さんが教えてくれた。

長屋さんの専門は、なんとエジプトの考古学。この博物館は自然科学の学芸員で構成されていると勝手に思い込んでいた私は、長屋さんが文系の学芸員だと聞いて少々びっくりした。しかしこれにも、もちろん年縞が関係しているのだという。

地質学でも考古学でも、化石や遺跡などの年代を調べるためには放射性炭素年代測定という方法が使われている。この測定方法は動植物に含まれる放射性炭素(炭素14)という物質を利用している。しかし放射性炭素の量は年代によって変動し、一定ではないため、この方法は必ずしも正確であるとは限らない。この誤差を埋めるためには国際的な合意に基づいて統一された「較正モデル」(較正とは比べて正す、という意味。キャリブレーション)という換算表が必要だという。

一方、水月湖の年縞は途切れなく堆積しているため、縞の数を数えればいつの年のものかほぼ特定できるし、さらに年縞に含まれる葉の化石の炭素14を測定することでその年代の炭素を正確に測定することができるようになった。これによって世界中で測られた放射性炭素年代は水月湖のデータと対比することで、水月湖の何枚目の縞に含まれた葉の化石に相当し、いつの年代のものなのか? ということが詳しくわかるようになったのだという。

さて現在、世界で最も広く使われている較正モデルは「IntCal」と呼ばれ、数度の更新を経て精度を高めてきた。その最新版は2013年につくられた「IntCal13」。この「IntCal13」では水月湖の年縞のデータが高く評価され、最も信頼できるデータとして採用されているのだ。これが水月湖の年縞が「世界標準のものさし」と呼ばれるようになった所以だ

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