さて、幕間のたびに行われている「お楽しみ抽選会」では、この祭りに関わるさまざまな人たちがくじひき役として壇上にあがるのだが、常陸大宮市地域おこし協力隊として、二年前に都会からこの町にやってきた松原功さんもその一人だ。
常陸大宮市は十五年前に五市町村が合併して生まれた市だ。松原さんが担当しているのは同じ市内でも、西塩子からはだいぶ離れた旧緒川村という地域だ。ふだんは山林でイノシシ猟や森林の活用を担当している松原さんだが、自主的に西塩子地区のお祭りを手伝うことにしたのだという。竹の伐採や舞台の組み立てなどの力仕事はもちろんのこと、SNSでボランティアの募集情報を流して人手を集めるなど、西塩子に通って地道なお手伝いを続けてきた。
西塩子の農村歌舞伎は、これからの常陸大宮市が、旧町村の壁を超えて一つの大きな地域になるきっかけになるんじゃないか、と松原さんは感じている。自分のように西塩子以外の地区に住むたくさんの人たちが舞台の手伝いに訪れるのを、この二ヶ月の間ずっと見てきたからだ。「それも西塩子の人たちが僕らのことを受け入れてくれたからなんですよね」と松原さんは西野先生と同じようなことを言っていた。
松原さんは最後に「あ、そうだ。もう一つ!」と付け加えた。
「僕たちが組み立ての手伝いに行くと、いつも地元のお母さんたちが必ずおいしいご飯をつくって待っていてくれる。作業を終えるとみんなでそのご飯を食べる。だからお母さんたちが『裏方の裏方』なんですよ」
町の人たちと掛け合いながら、舞台の上で当たり番号を引く松原さんの姿は、とても楽しそうだ。お楽しみ抽選会の一等は、常陸大宮の美味しいお米、なんと60キロ。いったい誰が当選するのだろうか? と舞台を見守る人たちもワイワイと盛り上がっている。だんだんと夕暮れが近づく中、地元の人たちが出す手作りの屋台もますます賑わっていた。
高齢化や台風で開催がいくどか危ぶまれたとは思えない、大盛況の今日。
そういえば大貫会長は、こうも言っていた。
「誰もが舞台を好きだからね。始まっちゃうとね、この流れはやっぱり止められないんだよね!」