西塩子の組立式回り舞台は、木と竹で作られている。使われている木材は200本、屋根に使われる竹は300本。床などの大きな部材以外を除いて、屋根や壁などは定期公演のたびに、毎回新しいものを作っては壊し、作っては壊しを繰り返すのだ。この作業には約二ヶ月を要し、舞台の裏方である「西塩子回り舞台保存会」の人たち以外にも、ボランティアの力が欠かせない。
ここ西塩子は高齢化が進み、今は約60戸の小集落で構成されている。限界集落に指定されたこの地域で、舞台の組み立てと歌舞伎公演を続けていくのは本当に大変だ。今回の定期公演も三年に一度ではなく、五年後にしようかという案もでたほど、事態は深刻なのである。 これからどうやってこの文化を次の時代へと伝承していくのかが課題だ、と「西塩子回り舞台保存会」の会長、大貫孝夫さんは語る。地域の文化として、学校の授業などを通じて子供たちに歌舞伎を学ばせているのも、その取り組みの一つだ。
西野先生と一緒にやってくる茨城大学の学生の力も大きい、と大貫さんは感じている。事前の竹材の切り出し、舞台の組み上げだけでなく、なんと地域が交流の機会として企画した田植えや稲刈りまで手伝っている学生もいるという。
そして公演当日である今日は、パンフレットを配り、お客さんを案内し、幕間には壇上に上がってトークまでこなしている。舞台の裏方スタッフとして、ずっと舞台袖に張り付いている学生もいる。学生たちはみな、公演を見る暇もないことだろう。
「地域に貢献する活動がしたかったので」という小池さくらさんは、この常陸大宮市出身の大学二年生だ。実際に舞台が組み上がっていくのを間近で見ていて、舞台の仕組みがわかっていくのが、楽しかったという。
四年生の大貫史織さんは、三年前の定期公演にも参加。前回は忙しくて歌舞伎を見られなかったので、今回はお客さんとして見にきた、というのだが、結局は客席から離れたところで、ずっと後輩たちを手伝っている。
おじいちゃんたちと喋るのが好き、という大貫さん。 「ここでのボランティアを通して、大学にいるだけでは学べないことを学ぶことができたし、すてきな大人たちにも出会えた。後輩たちにも地域に入る活動を続けて欲しいです」という。
「ここで彼女たちが自分のやりたいことを見つけてくれたら嬉しい」と西野先生も語る。いまは大学内の社会連携センター長を務めている西野先生自身も「本来、自分の専門ではない地域活性、地域連携という分野をこの西塩子で勉強させてもらったんでしょうね」という。
「私が保存会のみなさんと知り合った最初のころは、茨大の教員とは知らずに、おじちゃんたちに、ボランティアの『お姉さん』として手招きされていっしょにお茶飲んで……、みたいなところから始まりました」と西野先生。それからずっと変わらず気さくに茨城大学のボランティアを受け入れて続けてくれた大貫会長さんら地域の人たちを、今ではまるで家族のようだと、西野先生は感じているのだ。