未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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未来へ向かって回せ! 西塩子の回り舞台と農村歌舞伎

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.149 |8 November 2019
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#8西若座

迫力の「戻り橋」が終わって、辺りはすっかり暗くなっていた。 残すところ、演目はあと一つ、地芝居「太功記十段目」。トリを務めるのは、もちろん、地元の芸達者たちで結成された「西若座」だ。

西若座による最後の演目が始まった

自分たちが役者として舞台に立ちたくなって立ち上げたという「西若座」。この地区で続けてきた伝統を、自分たちの代で途切れさせたくない、次の世代に引き渡したい、西塩子の人たちはいう。

西野先生は、「お父さんお祖父さんの代から続けてきた舞台を、子供の頃から一緒に見てきたこの地区の人たちだったからこそ実現できたのだろうな」と思うほど、この地区の人たちは仲がよいのだという。西塩子地区の全60世帯が保存会であり、西若座なのだ。

そして自分たちの舞台を自分たちで組み立て、自分たちが出演する。なんといってもこの「西若座」があることが、復活してから20年、7回の組み立てと公演が続けられてきた理由なのだと思う、と西野先生はいう。

さて「太功記十段目」は明智光秀の謀反の話がモデルになっている。主君・尾田春長を討ったはいいが、だんだんと劣勢に追い込まれていく武智光秀の悲哀が描かれる、人間ドラマだ。

舞台の上では次々と家族を失って呆然とする光秀の前に、落ち延びてきた宿敵・真柴久吉が現れる。そして次の決戦を誓って、光秀と真柴久吉と対峙する最後のシーン。里山をすっかり包み込んだ夜の暗闇と、屋根に灯された提灯の明かり中で繰り広げられる生死をかけた戦いと苦悩のドラマは、幻想的だった。

帰りのシャトルバスに乗り込むと、隣り合わせた知らない人たちは、みんなちょっぴり興奮気味だった。初めて見に来たという人もいれば、もう何回も見に来ているという人もいる。きれいだったね、おもしろかったね、と知らない人たちと感想を語り合いながら、あっという間に駐車場についた。さよならを言い合って、それぞれが帰路につく。

家に帰って西野先生にお礼のメールをおくると「一日中立っていたので足腰はちょっと痛いのですが、気持ちはたくさんの方たちへの感謝や、保存会と学生への賞賛で、疲れを感じていないようです」という返事が返ってきたのであった。

見る人も作る人も手伝う人も、みんな西塩子の歌舞伎が大好きなのだなと、思った。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

未来へ向かって回せ!西塩子の回り舞台と農村歌舞伎

予算の目安15000円〜

最寄りのICから【E6】常磐自動車道「那珂IC」を下車
1日目
常陸大宮市へ。古文書など地域の史料を保管する常陸大宮市文書館 では11月10日まで集中曝涼として「西塩子の回り舞台のフスマ」を展示中だ。舞台の道具などの文化財をみることができる。
常陸大宮市は「常陸秋そば」の産地であり、そば処として有名。また市内には温泉も多い。そばと温泉めぐりを楽しもう。
2日目
市内には久慈川や御前山などの自然がいっぱい。紅葉も綺麗な時期だ。ハイキングやドライブ、デイキャンプなどを楽しもう。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。