未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
146

「わくわく!」で世の中を照らす
「美術館らしくない美術館」
猪苗代 はじまりの美術館

文= 川内 有緒
写真= 川内 有緒、はじまりの美術館(一部写真提供)
未知の細道 No.146 |25 September 2019
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#6毎日ラーメンを握りしめて

ちょっとここらへんで、正直なところを告白したいと思う。恥ずかしいので、書かないでおくか迷ったけれど、思い切って書こう。
遡ること二年ほど前、障害者の作品を主軸にする美術館が猪苗代にあると知ったとき、心のどこかでこう思っていた。
ふーん、蔵を改装した美術館ってよさそうだけど、もしかしたら作品自体はそんなに面白くないのかも?
ええ、そうです。まさに、先ほどの「先入観」や「偏見」のなせるワザだ。人間社会におけるチャレンジだ、なんだ、とカッコつけて書いたが、真実はなんのことはない、ダメな自分に対しての戒めの言葉なのである。
あー、ゴメンなさい!
実際にここに来てみれば、そんな私のどうしょうもない偏見を、ガガガガガ! とドリルで破壊して、宇宙にぽーんと放り投げるようなアバンギャルドな作品が連なっている。
例えば、岡部さんたちが写真で見せてくれた、こんな過去の作品だ。

酒井美穂子 《サッポロ一番しょうゆ味》

無数のインスタントラーメンの袋がずらーーーーっ!と壁一面に並んでいる。
ななな、なんですか、これは? (やや面食らい気味)
「酒井美穂子さんの《サッポロ一番しょうゆ味》です。酒井さんは、『やまなみ工房』という福祉施設に通っている方ですが、サッポロ一番の醤油ラーメンのパックを触るのが好きなんです」(大政さん)
ほほう?
「20年間にわたって、一日中ラーメンの袋を握りしめているんです。しかも味噌味や塩味はダメで、醤油オンリー。『やまなみ工房』のスタッフは、これもひとつの表現の形だろうということで、酒井さんが握りしめたラーメンに日付をつけて保管していたそうです」 これもひとつの表現……確かに。
20年の蓄積は、見る人を圧倒させる力がハンパない。
「その時の企画展のタイトルは『無意味、のようなもの』でした」
ん、無意味、のような? 
ということは、無意味に見えて、無意味じゃない?
うわあ、いい。すごくいい。めちゃくちゃいい。

写真を見て最初に湧き上がった感情は「???」だったが、次第にゾクゾクした気分に変化し、最終的にはジェラシーに変わった。
いいなあ、うらやましいぞ!
私もできることなら、毎日のように自分の好きなものを握りしめたい。誰になんと言われようと、好きなものを追いかけ、それを表現したい。「人は誰でもアーティストになれる」と言ったのはドイツ人アーティストのヨーゼフ・ボイスだが、自分もこんな風になりたい。
そうだ、なんの意味も無いものなんか、きっとこの世にないのだ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。