未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
146

「わくわく!」で世の中を照らす
「美術館らしくない美術館」
猪苗代 はじまりの美術館

文= 川内 有緒
写真= 川内 有緒、はじまりの美術館(一部写真提供)
未知の細道 No.146 |25 September 2019
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#4無意味な行為の先に

さて、遡ること5年前にこのユニークな美術館を立ち上げたのは、知的障害などを持つ人たちの支援を行う社会福祉法人「安積愛育園」である。先ほども書いたが、館長の岡部さんは、そこの生活支援員だった。
なぜ社会福祉法人が美術館を立ち上げようと思ったのだろうか?
「福祉事業所ではみんなで作業を行うのですが、なかには作業が苦手な人もいるんですね。どうやったらそういう人の毎日を充実させられるだろうかと考えるなかで、アート制作が始まりました。やってみたら、もう自分たちもびっくりさせられるような作品が生まれることもあって、固定概念がひっくり返されました」

そんな一例が、これだ。
安積愛育園の利用者の方の作品ではないが、2014年の美術館のオープニング企画を飾った作品である。

武田拓《はし》2010 撮影:鈴木心
武田拓《はし》2010 撮影:鈴木心

わお、なんだ、これは! 
写真で見た限りでは、よくわからなかった。
「福祉事業所では、割り箸を牛乳パックに詰めて燃料として売るという仕事があるんです。普段はパックいっぱいに詰め終わると完成なのですが、なかにはどんどん詰め込み続けて、はみ出しちゃう人がいたんですね。普通だったら、『ここで終わりにしましょう』と止めるんですが、それを面白がって、『どこまで行くか見てみよう!』と考えるスタッフがいたんです。そうして、でき上がってきたのがこれです」(岡部さん)
ということは、バスケットに入っているのは、全て割り箸なのか!
ここまで成長させるのに、2ヶ月を要したそうだ。
「2ヶ月かけて作る人、面白そうだからほっといてみようというスタッフ、さらに作品として世に出そうと思う人。それぞれの人がいなかったら、この作品も展示も生まれなかったんですよね」
すばらしいなあ。
別に障害がある人の作品だからすばらしい、という意味ではない。
どんどん割り箸を乗っけちゃおう、いいね、その先を見たいぞ! と盛り上がるみんなのワクワクがすばらしい。だって、自分の子どもの頃を思いだすと、意味がわからない行為や、既定路線から外れたものは、すみやかに「やめなさい」と先生に止められたものだった。35年前、父と猪苗代に来た頃の私は、そんな学校が窮屈でたまらなかった。
そうだ、無意味かもしれない行為の先には、なにかがある。
Don’t Stop 無意味な行為!

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。