もうひとつは、女性ひとりで運営する小さな洋品店「and & BOY」。やや奥まった場所にあるのだけれど、ここは必見である。
扉を開けると、髪を金髪に染めたほっそりとした女性が、とても熱心に本を読んでいる。手にしている本は、「トーマス・マン全集」。
トーマス・マンといえば『魔の山』くらいしか知らない私は、その真剣な読書姿を見ただけで感動ものだった。さらに感動的なのは、その空間である。隅々まで店主の美意識が行きわたり、まるでイギリスあたりのヒップな仕立て屋さんに紛れ込んだような錯覚を覚える。
「ロンドンかどこかにいらしたのですか!」と興奮しながら聞くと、「いえいえ、私は函館で生まれて、ここに引っ越して来るまでは、ほとんど北海道を出たことがなかったんですよ!」と楽しそうに答えた。
小山さんは、2015年に黒磯のギャラリーで展示会を開いたことをきっかけに、 翌年には電撃的に移住。それ以来「一度も北海道に帰りたいと思うことはない」と言い切るほど、ここでの暮らしが気に入っている。
自らデザインし、縫製された1点ものの洋服は「本当にかっこいいんですよ、着てみてください!」とBullock Booksの内田さんも熱心に勧める。
鏡に向かってロングジャケットを着てみると、自分も不思議な舞台の主人公になった気分になった。